研究課題/領域番号 |
23560840
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土山 聡宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315106)
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キーワード | チタン合金 / 侵入型元素 / 強度 / 延性 / 加工硬化 / 中性子回折 / 不均一変形 |
研究概要 |
省資源で安価な構造用新チタン合金の開発を目指し、高酸素・窒素含有チタン合金における組織制御法および得られる特性について調査を行った。初年度の成果により、二相チタン合金であるTi-4Cr合金に酸素および窒素をそれぞれ単独で0.2mass%程度添加すると、降伏強度・引張強度が著しく増大するだけでなく、高歪み域での加工硬化率が上昇し、均一伸びも同時に増大することが判明している。したがって、本合金における機械的性質の発現機構を明らかにし、さらに性質改善を図るには、酸素、窒素による本合金の加工硬化率増大のメカニズムを解明することが本質的な課題となる。過去に実施されたDP鋼(2相合金)の研究成果を参照すると、本合金においても酸素、窒素添加によってα相とβ相の強度比が変化し、不均一な塑性変形の挙動が変化した可能性があると考えられたたため、新しい試みとして、デジタル画像相関法(DIC法)を用いた塑性歪み分布のその場観察を行った。すなわち、引張試験に伴う金属組織の変形挙動を画像解析により定量的に測定し、歪みマップとして可視化する手法である。この手法により、Ti-4Cr合金の極めて不均一な塑性変形挙動が明らかとなった。具体的には、酸素・窒素が添加されていない場合は、軟質相であるα相に歪みが集中し、変形初期は高い加工硬化を示すが、すぐに軟質相の変形限界を迎えて、α/β界面付近で早期にクラックを発生してしまう。一方、酸素・窒素添加材では、両相の歪み分布が均一化され、高歪みになるとβ相への応力分配も顕著となって、無添加材では機能していなかったβ相の加工硬化能(TWIP硬化)が発現するようになる。つまり加工硬化のスイッチングが生じる。その結果、高歪み域でも塑性不安定を生じることなく均一伸びが増大したと結論づけられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請の段階では、酸素・窒素濃度を種々変化させた試料を作製する計画としていたが、それによる特性の変化を調査するよりも、同一の試料について詳細に調査を行い、特性発現の機構を明確化することに重点を置くこととした。その結果、初年度は中性子回折やナノインデンターを用いた解析など、当初の計画になかった実験にまで踏み込んで実施することができ、微細な二相組織中における各相の特徴を抽出することに成功した。さらに第二年度には、デジタル画像相関法(DIC)によるマルチスケール解析を新たに導入することで、当初の予想以上に明確に加工硬化機構の説明が可能となった。一方、第二年度および三年度に計画していた各相を模擬した単相合金による実験も既に開始しており、順調に成果が出つつある。達成度は計画通り、あるいはやや予想以上と言える。
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今後の研究の推進方策 |
二相チタン合金の特性発現機構をより明確とするためには、各相の特性、ならびに複相材中における各相間の応力・歪み分配挙動の理解が不可欠である。今後は単相材の試料も対象に入れ、TEMによる変形組織解析、DICによる歪み解析を主な手法として、Ti-4Cr-O、N合金中のα相(Ti-O,N合金)とβ相(Ti-Cr合金)における強化機構を個別に評価していく。評価のポイントは以下の通りである。 (1)固溶強化(粒径の等しい試料における降伏応力の酸素・窒素濃度依存性) (2)結晶粒微細化強化(Hall-Petchの関係式における酸素・窒素濃度依存性) (3)加工硬化(転位強化)(各歪み域における加工硬化率の酸素・窒素濃度依存性) 各相の性質が明らかになった後、それらの複合として発現するマクロな特性について混合則あるいは転位論的な観点から考察を行い、最適組織の提案に向けた知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
とくに大きな備品の購入は計画していないが、中性子回折、SEM-EBSDなどの使用頻度が高まるためその使用料、また外注での試験や試料作製費も増えると予想されることから、「その他」の予算を大きめに計上している。
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