チタン中で侵入型固溶元素として振る舞う酸素と窒素は、一般にチタン合金の延性を著しく低下させる有害な不純物であることから、合金元素としての利用に関する研究は十分なされてこなかった。しかし申請者らは、酸素・窒素が一般の置換型元素に比べて極めて高い強化能を有すること、また省資源の観点からも重要な元素であることを考慮し、その強化元素としての有効利用を試みた。具体的には、溶体化-時効処理によって(α+β)二相組織となるTi-4Cr合金に対して、酸素あるいは窒素を最大0.5mass%まで添加し、引張試験によって機械的性質の調査を行った。同時にSEM-EBSD、TEM-EDS、ナノインデンター、DIC解析などの解析手法を用いて組織の形態、相比、相間の元素分配、各相の硬度、相間のひずみ分配を測定した。得られた結果を要約すると以下の通りである。 (1)Ti-4Cr合金に0.2%程度の酸素・窒素を添加すると、強度が上昇するだけでなくだけでなく伸びも大幅に増大する。 (2)二相チタン合金に約0.2%の酸素・窒素を添加すると、そのほとんどがα相に分配され、α相を固溶強化するため、本来軟質相であったα相がβ相と同等の強度となり、両相が同時に塑性変形を生じるようになる。 (3)上記の理由により、α相へのひずみ集中が緩和され、α相中(α/β界面近傍)での早期のクラック発生が抑制される。 (4)さらに、β相(Ti-8Cr組成)の塑性変形によりTWIP効果が発現して材料の加工硬化率を高ひずみ域で増大させる。これは均一伸びの増大をもたらす。 (5)二相Ti合金の強度-延性バランスを改善するには侵入型元素である酸素と窒素の添加は極めて有効である。ただし二相間での元素の分配を考慮し、各相の特性を適性に制御しておくことが重要である。
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