研究課題/領域番号 |
23560845
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
小林 重昭 足利工業大学, 工学部, 准教授 (00323931)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノ結晶金属材料 / 疲労特性 / 結晶粒界 / 粒界工学 |
研究概要 |
ナノ結晶材料は、結晶粒径が100 nm以下の結晶粒によって構成される多結晶材料であり、優れた強度特性を示す。本研究は、ナノ結晶材料のマイクロマシン用構造材料としての応用において重要となる疲労特性・破壊機構を体系的、本質的に解明することを目的とした。そこで、結晶構造の異なるニッケル基および鉄基合金の疲労特性・破壊機構を、従来議論されてきた結晶粒径の影響に加え、集合組織および結晶粒界の影響にも着目して明らかにすることとした。さらに、得られた知見を基に、粒界制御に基づく疲労破壊制御とそれに伴う疲労特性向上のための新たな材料プロセスを確立することを目的とした。 平成23年度は、面心立方構造をもつナノ結晶ニッケルおよびナノ結晶ニッケル-リン合金の疲労特性・破壊機構を調べた。ナノ結晶ニッケルについては、パルスめっき法とその後の熱処理によるナノ結晶組織制御プロセスを確立し、高サイクル疲労特性・破壊機構を明らかにした。ニッケルの疲労強さは、ナノ結晶化により高くなる傾向を示した。さらに、高サイクル疲労後の破断面には、通常の結晶粒径をもつ多結晶金属の疲労破壊の場合と同様に、ストライエーションおよびディンプルが形成されることを示した。ストライエーションおよびディンプルの大きさは、初期のナノ結晶粒に比べて大きくなることがわかった。 ナノ結晶ニッケル-リン合金についても、ナノ結晶化により疲労強さが向上することを明らかにした。リンを添加することにより、ナノ結晶ニッケルに比べてさらに疲労強さが高くなることも明らかにした。さらに、高サイクル疲労に伴う結晶粒成長、集合組織および粒界性格分布(異なる性格をもった粒界の多結晶体における存在頻度を統計的に示したもの)の変化を定量的に評価した。その結果、これらの材料微細組織の変化に、ナノ結晶ニッケル基合金の疲労特性・破壊挙動が強く影響を受けることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
面心立方構造をもつニッケルおよびニッケル-リン合金に対して、それぞれパルスめっきおよび電気めっきによるナノ結晶組織制御に関するプロセスを明らかにした。第2元素を含まないナノ結晶ニッケルについては、パルスめっき後に焼なましを行い、微細組織の熱的安定性、結晶粒成長などを調べた。さらに、作製した試験片について、X線ディフラクトメーター(XRD)および結晶方位自動解析装置(FE-SEM/EBSD)による結晶粒組織および粒界微細組織の定量的評価を行った。以上のように、試験片の作製および粒界微細組織の定量的評価については、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載したとおりに達成できた。 電析法により作製したナノ結晶ニッケルおよびナノ結晶ニッケル-リン合金試験片の室温での高サイクル疲労に伴う結晶粒組織および粒界微細組織の局所的、全体的変化を、FE-SEM/EBSD解析により定量的に調べた。その結果、繰返し負荷に伴う結晶粒成長のような微細組織変化が、ナノ結晶材料の疲労強さおよび疲労破断機構の支配的要因になることが明らかになった。交付申請書の「研究計画・方法」欄に記載したとおり研究を進められたが、以上のような微細組織変化が高サイクル疲労試験のいつの段階で生じるのか、また微細組織変化の程度に負荷応力がどのような影響を及ぼすのかについては、まだ完全に明らかになったとは言えず、今後さらに詳細な研究が必要であると考えた。 以上のことから、本研究は、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容にしたがって順調に進んでいるものと考える。一方で、次年度以降に取り組むべき新たな課題も見つかった現状にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究についても、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容にしたがって推進する計画である。また、今年度得られた知見も適宜反映させる。さらに、本年度の研究により新たに生じた課題についても並行して検討する。今後の主となる研究の推進方策は以下のとおりである。 体心立方構造をもつナノ結晶鉄基合金を硫酸鉄、塩化鉄および硫酸ニッケルを主成分とする電析浴を用い、パルスめっきにより作製する。高サイクル疲労特性および破壊機構を本年度と同様に、結晶粒組織および粒界微細組織と関連づけて明らかにする。ナノ結晶面心立方金属材料に対して得られた結果と統合して、ナノ結晶材料の疲労特性および破壊機構について体系的にまとめる。 次に、電析ナノ結晶材料の疲労破壊抑制に対する粒界制御の有効性を検証する。面心立方金属のニッケル基合金については、電析とその後の100℃付近での熱処理による多重双晶の形成によって高頻度のシグマ3対応粒界を導入する粒界制御プロセスを検討する。一方、体心立方金属の鉄基合金に対しては、集合組織の種類・配向度を変化させることにより、小角粒界および対応粒界の存在頻度の制御を試みる。通常の電析法により作製した試験片と粒界制御を行った試験片について高サイクル疲労試験を行い、疲労破壊抑制に対する粒界制御の有効性を検証する。 本研究課題によって得られた成果をまとめ、ナノ結晶金属材料の疲労特性向上のための粒界工学的手法を提案、発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、主として消耗品費および国内旅費として使用する計画である。消耗品としては、電極材料となるニッケル、鉄およびチタンなどの素材費、めっき浴および試験片の組織観察に関わる化学薬品類、試験片加工・作製にかかわる精密切断機用砥石、研磨紙・研磨剤などが主な使用品目として挙げられる。 また、国内旅費は調査・研究費として使用する計画であり、主として学外装置の使用に関わる経費(出張先は熊本大学工学部)である。これは、本研究の遂行において不可欠な粒界微細組織のFE-SEM/EBSD/OIM解析に関わるものであり、現時点では6~8日間(3~4日間の出張を2回)の出張を計画している。また、国内学会での成果報告のための出張費としても使用予定である。 謝金およびその他の経費は、資料提供閲覧費および機器修理費、学会誌投稿料として使用する計画である。
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