研究課題/領域番号 |
23560845
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研究機関 | 足利工業大学 |
研究代表者 |
小林 重昭 足利工業大学, 工学部, 准教授 (00323931)
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キーワード | ナノ結晶金属材料 / 疲労特性 / 結晶粒界 / 粒界工学 |
研究概要 |
最近、Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) のような微小機械の開発が盛んに行われている。このような微小機械用の構造材料として、優れた機械的性質をもつナノ結晶材料の開発が望まれている。特に、MEMSの代表的な製造工程との関連から、電析ナノ結晶金属材料に対する期待が高まっている。本研究は、電析ナノ結晶金属材料の実用化において重要となる疲労破壊特性を材料組織学的に解明すること、その知見に基づき疲労特性を向上することを目的としたものである。 面心立方金属材料であるナノ結晶ニッケルとニッケル-リン合金の疲労破壊に伴う微細組織の変化を詳細に調べた。電析ナノ結晶ニッケル合金の高サイクル疲労に伴い生じる結晶粒成長が、疲労破壊過程に強く影響を及ぼし、疲労強度をも制限することを明らかにした。これらの知見から、ナノ結晶金属材料の疲労特性の向上に対しては、繰返し応力の負荷によって生じる結晶粒成長を抑制することが重要であることを導き出した。 高サイクル疲労試験前の試験片の結晶方位自動解析結果から、電析ナノ結晶ニッケルの初期組織では、結晶粒界が湾曲した非平衡の状態にあることが示された。湾曲した結晶粒界近傍は、局所的に変形が複雑になり、応力集中を生じることから破壊の起点となるものと予測された。このため、電析ナノ結晶試験片を100℃から200℃の範囲で熱処理し、結晶粒界を直線的な形状に変化させた後、機械的性質を評価した。その結果、熱処理を施した電析ナノ結晶ニッケル試験片では、電析させたままの試験片に比べ破断強度および延性ともに向上することを見出した。 さらに、体心立方構造をもつナノ結晶鉄-ニッケル合金についても同様に、電析による組織制御プロセスを検討するとともに機械的性質を実験的に調べた。鉄-ニッケル合金についても、ナノ結晶化により疲労特性を向上できる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
面心立方構造をもつナノ結晶ニッケルおよびナノ結晶ニッケル-リン合金について、それぞれ電析法によるナノ結晶組織制御プロセスを明らかした。ナノ結晶試験片の繰返し応力負荷による粒界微細組織の局所変化を結晶方位自動解析装置により定量的に評価した。前年度、新たな課題として挙げられた微細組織変化に及ぼす負荷応力の影響についても明らかにすることができた。さらに、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載したとおり、ナノ結晶金属材料の疲労特性および破壊過程に及ぼす粒界微細組織変化の影響を明らかにすることができた。得られた知見から、ナノ結晶材料の疲労特性の向上に対しては、安定な初期微細組織を得ることが重要であると考え、ナノ結晶ニッケルの作製プロセスについて、電析浴組成および電析条件の再検討を行うとともに電析後の熱処理の影響を調べ、初期微細組織の最適化を目指している段階である。 体心立方構造をもつナノ結晶鉄‐ニッケル合金に対しても、電析法によるナノ結晶化プロセスを明らかにすることができた。ナノ結晶鉄‐ニッケル試験片の粒界微細組織評価については、得られた試験片の初期結晶粒径が30nm以下と非常に微細であったため、結晶方位自動解析装置による定量評価が困難な状況にあり、現在はX線回折測定により評価を進めている。機械的性質についても評価を始めることができた。今後の対策として、電析条件の見直しおよび電析後の熱処理により、初期結晶粒組織を定量評価可能な大きさにまで制御することを検討している。 以上のことから、本研究は、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容にしたがって、概ね順調に進んでいるものと考える。一方で、次年度以降に取り組むべき新たな課題も見つかった現状にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究についても、交付申請書の「研究の目的」および「研究計画・方法」欄に記載した内容に沿って推進する計画である。また、今年度得られた知見および新たに生じた課題についても考慮し研究を進める。今後の主となる研究の推進方策は以下の通りである。 平成24年度に引続き、体心立方構造をもつナノ結晶鉄-ニッケル合金について、高サイクル疲労特性および破壊過程を結晶粒組織および粒界微細組織と関連づけて明らかにする。ナノ結晶面心立方金属材料に対して得られた結果と統合して、ナノ結晶金属材料の疲労特性および破壊過程に及ぼす粒界微細組織の影響について体系的にまとめる。 次に、得られた知見を土台として、電析ナノ結晶金属材料の疲労破壊抑制とそれに伴う疲労特性向上のための粒界微細組織制御について検討する。電析ナノ結晶金属材料の疲労破壊過程および疲労特性は、繰返し応力負荷に伴う粒界微細組織の変化の影響を強く受けることが明らかになったことから、粒界微細組織の安定化を基本方策として検討を進める計画である。現在得られている電析ナノ結晶金属材料試験片の初期組織は、結晶粒界が湾曲した非平衡の状態にあり、これが組織の不安定性のひとつの原因と考えられる。そこで、今後は、電析プロセスにおける電析浴および電析条件の再検討を行うとともに、電析後の100℃付近での熱処理により、粒界形状の制御および粒界性格分布(異なる性格をもった結晶粒界の存在頻度を統計的に示したもの)の制御による結晶粒界の安定化方法について検討する。通常の電析法により作製した試験片と結晶粒界制御を行った試験片について高サイクル疲労試験を行い、疲労破壊抑制に対する粒界制御の有効性を検証する。 本研究課題によって得られた成果をまとめ、ナノ結晶金属材料の疲労特性向上のための粒界工学的手法を提案、発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度末までに、研究が計画に従って概ね順調に進んだことから、次年度使用額として4,186円が生じた。これを含めた次年度の研究費は、主として消耗品費および国内旅費として使用する計画である。 消耗品としては、電極材料となるニッケル、鉄およびチタンなどの素材費、めっき浴および試験片の組織観察に関わる化学薬品類、試験片の加工にかかわる精密切断機用砥石、研磨紙・研磨剤などが主な使用品目として挙げられる。 また、国内旅費は調査・研究費として使用する計画であり、主として学外装置の使用に関わる経費(出張先は熊本大学工学部)である。これは、本研究の遂行において不可欠な粒界微細組織の結晶方位自動解析(FE-SEM/EBSD/OIM解析)に関わるものであり、現時点では6~8日間(3~4日間の出張を2回)の出張を計画している。また、国内学会での成果報告のための経費としても使用する予定である。 謝金およびその他の経費は、それぞれ資料提供閲覧費および成果報告用の経費として使用する計画である。
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