Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) のような微小機械・機械要素の構造材料として、優れた機械的性質をもつナノ結晶材料の開発が望まれている。本研究では、MEMSの代表的な製造工程との関連から、特に要求が高まっている電析ナノ結晶金属材料の疲労破壊特性を材料組織学的に解明すること、その知見に基づき疲労特性を向上することを目的とした。面心立方構造をもつナノ結晶ニッケルとニッケル-リン合金および体心立方構造をもつナノ結晶鉄-ニッケル合金の電析法による組織制御方法を確立し、それらの疲労特性の評価、疲労破壊に伴う微細組織の変化を詳細に調べた。 3種類いずれの電析ナノ結晶材料も、通常の結晶粒組織をもつものに比べ、優れた引張強さ、疲労限を示すことが示された。特に、有機添加剤であるサッカリン酸ナトリウムの添加量の最適化により、ナノ結晶ニッケルで約1.5GPa、ナノ結晶ニッケル-リン合金で約2GPa、ナノ結晶鉄-ニッケル合金で約1.2GPaと極めて高い最大引張強さが得られた。さらに、電析ナノ結晶ニッケルに対し、電析したままの試験片を100℃から200℃の範囲で焼鈍することにより10%以上の塑性伸びが得られることを明らかにし、ナノ結晶材料における脆性の解決に対して重要な知見を得た。ナノ結晶化により通常の結晶粒組織をもつ材料の1.5から2.0倍まで疲労限を向上できることを明らかにした。しかしながら、ナノ結晶材料では高サイクル疲労に伴い結晶粒成長が生じること、それが疲労破壊過程に強く影響を及ぼし、疲労強度をも制限することを明らかにした。この結晶粒成長過程を集合組織及び粒界微細組織の変化と関連付けて検討した。得られた知見から、ナノ結晶金属材料の疲労特性の向上に対しては、繰返し応力の負荷によって生じる粒界移動と結晶粒成長を抑制することが重要であることを導き出した。
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