金属材料は,結晶粒を小さくすればするほど高強度になるが,近年の研究においては,均一ナノ結晶粒径材料は,塑性不安定の早期発現により,十分な延性が得られないことが知られている.一方で,3次元のネットワーク状に連結された微細結晶粒領域(以下,ネットワーク部)と分散配置された粗大結晶粒領域(分散部)を併せ持つ調和組織材料は,高強度であるとともに十分な延性を示す.本研究では,強度の向上に寄与するネットワーク部に高強度材料であるハイス鋼,延性の維持に寄与する分散部に高延性材料である低炭素鋼を用いた複合調和組織材料を,メカニカルミリング/放電プラズマ焼結法により作製し,その機械的性質とその特異な変形挙動および摩耗特性を検討した.ハイス鋼/炭素鋼複合調和組織材料は同ハイス鋼体積率の従来の粒子分散複合材料に比べて高硬度であり,高強度を示しながらも同程度の延性を示すことが明らかになり,従来材よりも高靱性を示すことが明らかとなった.ハイス鋼炭素鋼複合調和組織材料の変形挙動の特徴として,変形初期にハイス鋼ネットワーク領域でクラックが生じても,炭素鋼分散領域がそのクラックの進展を抑制し,そして炭素鋼分散領域の硬さが加工硬化によりハイス鋼ネットワーク領域とほぼ同じ硬さになると破断することが明らかとなった.このような特異な変形挙動が,高強度と高延性の両立に繋がると考えられる.ハイス鋼/炭素鋼複合調和組織材料のボールオン摩擦摩耗試験結果より,比摩耗量と硬さとの関係を示すホルムの式によれば,複合調和組織材料は粒子分散複合材料の1.40倍の比摩耗量を示すはずであるが,結果は1.16倍とホルムの式より低い値を示した.比摩耗量は母相の材質に起因しており,ハイス鋼を母相に持つ複合調和組織材料の方が硬さの割に優れた比摩耗量を示すことが明らかとなった.
|