研究課題/領域番号 |
23560851
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
江村 聡 独立行政法人物質・材料研究機構, 元素戦略材料センター, 主任研究員 (00354184)
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キーワード | ベータ型チタン合金 / 偏析 / ヘテロ構造 / 強度延性バランス / オメガ相 |
研究概要 |
本研究はベータ型Ti-Mo系合金において、Moの元素偏析に起因した渦状組織(Van Gogh’s Sky(VGS)組織)を現出させ、析出相の分布状態や変形モードが局所的に変化したハイブリッド材料の作り込みを行うとともに、 VGS組織と機械的性質の関連性を見いだすための定量化手法の確立およびVGS組織の形成過程や機械的性質の発現機構の解明を目指すものである。 本年度は主に以下のような成果が得られた。 (1) VGS組織の付与によって室温引張特性の向上が見られたTi-12Mo (重量%、以下同じ) 合金について473 Kで保持時間を変えて時効処理を行い室温引張特性を比較した。3.6 ksまでの時効処理では偏析の少ない材料(Normal材)の方がVGS材より高い延性を示すが、時効時間が10.8 ks以上になると逆にVGS材の方が高い延性を示す。5%程度の引張塑性変形を加えた試験片の形状比較から、VGS組織を有する材料に適切な時効処理を加え適量のオメガ相を析出させることで、試験片全体に変形が分散しくびれの開始を遅らせて延性を向上させることがわかった。またTi-Mo2元系合金だけでなく、Feを添加した3元系合金においてもVGS組織による室温引張特性の向上を確認した。特にTi-10Mo-3Fe、5Fe合金では溶体化処理まま材より時効処理後の材料の方が室温延性が向上するという従来にない結果が得られた。この組成ではオメガ相の析出は少ないかほとんどないため、現在他の可能性を検討している。 (2)前年度作成した微量ボロン添加Ti-12Mo合金ではVGS形態は変化したが機械的性質には今のところ大きな影響はないこと、一方大型インゴットを素材に棒材までの圧下率を大きく取った材料ではより細かいVGS組織が得られることを確認した。今後室温引張特性への影響を検討していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの研究によって、Ti-Mo二元系のみならずFe添加合金についてもVGS組織の機械的性質向上への寄与が確認されたこと、インゴットサイズによってVGS組織が変化することが確認され、VGS組織形態の制御が可能であることが示されたことなど新たな知見が見いだされ、研究はおおむね順調に進行しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成25年度ではこれまでに得られた知見をもとに溶解・加工・熱処理条件を変化させることでVGS組織の形態を制御すると共に得られたVGS組織の3次元観察・定量化に取り組む。特に本研究の目的のひとつである、偏析によって形作られているVGS組織を可視化し3次元観察を行うことに重点を置く。一方でVGS組織の変形機構・力学応答について通常組織との比較を行い評価する。過去2年間では引張試験、硬さ試験等のある程度マクロな評価が中心であったため、平成25年度はナノインデンテーション試験等を利用したミクロ領域の変形機構・力学応答の評価に重点を置く。以上の実験・検討を組み合わせることでVGS組織において機械的性質、特に延性の向上に寄与するパラメータを見出すとともに、そうしたパラメータを制御するプロセス条件を把握する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度からの繰り越し額は大型インゴットの作成が当初予定より若干遅れたために予定していた試験片加工等を平成25年度に行うこととしたために生じたものである。平成25年度請求の研究費と合わせ、当初予定通り材料のチタン合金の溶製原料の購入および引張特性評価のための試験片作成を中心に、実験用の理化学用品・薬品の購入や研究成果公表のための学会参加や論文投稿に関する費用を支出する予定であり、その遂行に特に問題はない。
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