研究課題/領域番号 |
23560852
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大村 孝仁 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (40343884)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノインデンテーション / 転位 / 粒界 / TEM / 力学特性 / 結晶粒微細化強化 |
研究概要 |
Fe-3mass%Si双結晶([110]共通回転軸Σ51対象傾角粒界,方位差角約23°)を対象とした局所力学解析において,粒界上の変形抵抗(4.9 GPa)と粒内の変形抵抗(5.0 GPa)が同程度である結果を得た。一方,IF鋼では, 粒内(2.2 GPa)に対して粒界(2.8 GPa)が25%程度高い値を示した。両材料のマクロ強度は,Fe-SiがHv=194であるのに対してIF鋼はHv=72であり,これは粒内の強度比とほぼ一致する。Fe-Si双結晶に対して透過電子顕微鏡その場圧縮変形を行った結果,粒内をすべり運動する転位組織が観察された。それらの転位は,粒界で堆積することなく,隣接粒に伝播する様子が観察された。それと同時に記録された荷重-変位の応答は,粒内を転位が伝播する際と粒界を通過する際において大きな差が確認されなかった。変形後の転位観察を詳細に行ったところ,同一の転位線が粒界を跨いで隣接する2つの結晶粒に存在する様子が観察された。結晶粒の幾何学的条件から,最も可能性の高いバーガースベクトルはa/2(111)またはa/2(1-11)であるが,両結晶粒間には20°以上の角度差があり,バーガースベクトル保存の法則により,両結晶において同一のバーガースベクトルを持ちえないことから,粒界において何らかの転位反応が起こっていることが示唆された。また,粒界における転位堆積が確認されなかったことから,この粒界における転位反応はエネルギー障壁の低いものと推察され,これにより大きな抵抗を生じることなく変形が進行したものと考察される。粒界における転位運動の障害が小さいことは,局所力学解析において得られた変形抵抗の測定値と整合する。すなわち,粒内と粒界が同程度の変形抵抗を示したことは,マトリクスに固溶したSiの固溶強化による強化因子が支配的であると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の手法の適用可能性を明らかにするため,単純化された結晶粒界の一つとして,Fe-Si双結晶対称傾角粒界を用いたTEMその場変形実験を行った結果,変形に組織変化すなわち転位のすべり運動の様子と,それに対応した荷重-変位関係が力学応答して検出でき,本研究の目的である伴う転位-粒界相互作用の機構解明において,このアプローチ方法が十分に効果的であることが明らかとなった。H23年度における成果として,大傾角粒界を対象とした実験において,転位が粒界に堆積する様子は観察されず,塑性変形が容易に隣接粒に伝播する様子が観察された。従来の理解では,大傾角粒界における主な機構は転位のパイルアップモデルであったが,大傾角粒界の場合でも別の機構が存在することを示唆する結果であり,本研究アプローチが転位-粒界相互作用の理解を通じて結晶粒微細化強化の素過程を解明する手法となり得ることの見通しを示した。
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今後の研究の推進方策 |
H23年度のアプローチ手法を種々の力学条件や試料に展開し,転位-粒界相互作用に関する系統的な実験を行う。具体的には,結晶方位を適切に制御することによって活動する転位のバーガースベクトルを変化させることや,対称傾角粒界のΣ値の異なる試料を用いることによって,転位と粒界の性格における様々な組み合わせの幾何学的な条件を設定し,転位挙動と力学応答の関係を明らかにする。さらには,粒界偏析元素としてPやCの影響を明確化し,結晶粒微細化強化における素過程の解明から,ホールペッチの関係式の物理的な意味について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験消耗品としては,実験機器の消耗品としてダイヤモンド圧子を計上する。実験装置の心臓部となる部品であり,優先順位の高い物品である。また,試料調整用の消耗品として,切断ブレードや研磨紙,薬品類などを計上する。成果の公表手段として,国内外の会議への参加登録費や旅費,論文投稿費用などを計上する。
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