研究課題/領域番号 |
23560856
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
島本 直伸 独立行政法人理化学研究所, 支援チーム, 客員研究員 (50386629)
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キーワード | ハイドロゲル / ナン・マイクロ / 微細加工 / ナノフォトニクス |
研究概要 |
本研究の目的は、ウエット&フレキシブル材料としてデバイス等への応用が期待されているハイドロゲル材料に対し、新規の微細加工方法を開発することによりこれまで実現不可能であったハイドロゲルを利用したナノ・マイクロシステムを構築することである。当該年度では、昨年度までに確立したAu薄膜をハイドロゲル上に転写する技術を発展させた。マイクロスケールのパターンによる体変化現象の精密計測ではイオン種による収縮特性が異なることを見出し、イオンセンサーとしての可能性を示すことができた。さらに、ゲルの膨潤・収縮により金マイクロパターン間の隔絶と接触により動作する電気的なスイッチデバイスの作製にも成功した。本年度はナノスケールでのパターンの転写も試みた。240nmのドットパターンを可視光域の波長に干渉する周期で配列させた構造を作製しその光学特性を観測した。その結果、ハイドロゲル上で良好の構造発色が確認でき、膨潤・収縮でこの構造色の明確な変化が確認できた。また、その吸収スペクトルの測定結果から変調可能なフォトニッククリスタル特性を示し、光学的機能素子としての可能性も示すことができた。高分子の特性に関しては、ポリアクリル酸以外のハイドロゲルについても検討を行い、Au薄膜の転写・接合性の確認を行った結果、カルボキシル基を有するハイドロゲルで良好な特性が得られることがわかった。これは、本研究のように金属ナノ・マイクロ構造とハイドロゲルの複合化による機能材料やデバイス等を作製する上で重量な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の初年度において、ハイドロゲル上へ微細パターンを形成する基本プロセスを完成させ、次年度で微細化をマイクロスケールからナノスケールに進展させることができたことから、本研究は順調に進捗しているといえる。また、微細構造に依存した機能をそれぞれ見出すことができており、今後の研究の展開が期待される結果を得ることができた。特に、ナノスケールの金属パターンの光学特性の結果は、現在ナノフォトニクスとして注目されている研究領域と相関があり、関連の物理学領域の研究者とも計測方法のアドバイスやディスカッションを通して、理解を深め研究が進展できることができている。 ハイドロゲルと金属の間の接合効果に対する検討も実施することができ、ハイドロゲルに含まれる官能基の検討から理解が進展している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までにハイドロゲルへの数100nmスケールスケールのAuの微細構造を作製することを実現できた。これにより、興味深い光学特性や現象が多く観測できることがわかった。よって、この光学的な機能化について詳細に検討するためのナノスケール微細構造を作製する必要がある。特に表面プラズモンによる効果を利用した機能発現を期待するためには100nm以下のサイズの金属構造体をハイドロゲル上に構築する必要がある。目標は50nm以下のサイズのAuまたはAgのドット状構造体を本研究で開発した転写法でハイドロゲル上に作製し、光励起のプラズマモンにより増強されたラマン効果の測定などを行う。この際に、ハイドロゲルの膨潤・収縮によるナノドットの構造配列の変化による効果を調べることにより、光学機能を自在に変化させることができる機能素子やセンサーとして発展させることができる。しかしながら、転写する金属ドットが数10nmオーダーとなると、ハイドロゲルを構成する高分子ネットワークのドメイン構造と近いサイズとなってくることから、これまで完成させてきた転写プロセスが確実に行えるかどうかも検討課題となる可能性が残っている。これについては、ゲルの重合過程で高分子ドメインを微小化する方法などを高分子化学研究者と共に検討を行うことを考えている。一方で、これまでの研究で金属薄膜とハイドロゲルの間で強い付着性が確認できていることから、基板上の金属ナノ構造によってハイドロゲルの高分子ドメイン構造を制御するという新たな方法が見いだせる可能性も考えられる。 研究成果は、学会・論文などで研究発表を行い広く公表し、共同研究や応用研究へと展開して行く。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究において実現可能になったハイドロゲル上のナノスケール構造体による光学機能特性に関して、次年度も積極的に進める。そのために、転写用のナノスケール金属薄膜構造体の作製で電子線リソグラフィ装置を利用する必要があり、実施を計画している100nm以下(目標50nm以下)のさらなる高精度加工のためには電子線リソグラフィ装置の十分なマシンタイムが必要であり、本年度以上に本装置利用のための装置利用費や出張費等が必要となると予想される。実行効率を十分に考慮して研究費を出資して行う予定である。そして、ナノ構造を転写したハイドロゲルの光学特性の評価のためには、溶液環境で観察や光学測定を実施しなければならいので、そのための顕微鏡やその付属部品などに研究費の執行を行う。 また、本年度予定していたハイドロゲルの体積変化過程の高精密計測用のレーザースポットの解析に利用する画像解析ソフトウエアに関しては、次年度のナノスケールでの解析にも対応できるもの、研究の進展に合わせて仕様の検討を行い、購入を計画することを考えている。
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