研究課題/領域番号 |
23560861
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
多田 英司 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (40302260)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 電位分布 / 電流分布 / イオン分布 / 腐食生成物 / ガルバニ腐食 / マイクロ電気化学 / 数値シュミレーション |
研究概要 |
本研究の目的は,(1)亜鉛系表面処理鋼板の端面腐食過程を詳細に測定し,その機構を解明すること,(2)マルチフィジックスシミュレーションを端面腐食機構の解析に適用し,精緻な端面腐食モデルを構築すること,(3)亜鉛系表面処理鋼板の端面腐食を抑制する新規かつ高度な防食技術を確立することである.これらの目的を達成することにより,端面腐食の全過程を実験とシミュレーションにより完全に把握し,亜鉛系表面処理鋼板を6価クロムフリーのエコロジ-でより防食性能を発揮できる高級耐食鋼板へ進化させる指針を得る.すなわち,亜鉛の犠牲溶解反応速度を制御し,腐食生成物の保護作用を早期に発揮させることで,端面腐食を抑制するといった"(亜鉛の)錆で(鉄の)錆を制する"ことができる新規かつ高度な防食技術を確立する. 本研究では,液膜厚さ,塩濃度,乾湿繰り返しなど端面腐食系パラメータに対して端面の電気化学特性を詳細に測定するマイクロ電気化学測定装置を開発する.次に,端面腐食挙動を評価できる数理モデルを構築し,測定データを利用して,静電場-イオン輸送-化学反応を連成したマルチフィジックス解析を行う.得られた結果を実験結果と比較し,モデルの妥当性の評価と最適化を行う.最後に,解析データを使って腐食環境の経時変化と亜鉛めっき層の溶解速度変化および腐食生成物形成とその広がりとの相関を調査し,端面腐食抑制の指針を得る. 本年度においては,マイクロ電気化学装置の開発を行い,システムの構築,電気化学計測装置の製造に成功した.さらに,静電場-イオン輸送-化学反応を連成した解析を端面腐食系が電解質水溶液内に浸漬下状態を仮定して行い,電位,電流,イオン,腐食生成物堆積分布についての知見を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度では,マルチ電気化学プローブシステムの開発をまず実施した.具体的には,まず光学顕微鏡システムを構築し,次に観察ステージ駆動システム構築と制御プログラムの作成,電気化学計測装置の作製を行った.これにより,本年度計画において,ほぼ想定した計測システムの開発が行えた.ただ,プログラムの調整,計測システムの改良は引き続き必要と考えられる. また,本年度においては,先行して平成24年度実施予定のマルチフィジックスシミュレーションを簡単な端面腐食系に対して実施した.これにより,電位電流イオン分布と腐食生成物の堆積分布を計算できた.すなわち,電場解析と化学反応解析を連成した解析に成功し,実際の端面腐食系への解析技術の適用が行えるめどがたった. 以上から,本年度計画においては,一部の改良を除いてほぼ予定通り実施し,また次年度計画に対しても予備実験を実施したといえるため,おおむね計画通り研究を進展させることができているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後においては,マルチ電気化学プローブシステムの進化とマルチフィジックスシミュレーションの深化を行い,液膜厚さ,塩濃度,乾湿繰り返しなど端面腐食系パラメータに対して端面の電気化学特性を詳細に測定する.これにより,端面腐食の数理モデルを構築し,測定で得られた結果を計算結果とを比較することで,モデルの妥当性の評価と最適化を行う.最後に,解析データを使って腐食環境の経時変化と亜鉛めっき層の溶解速度変化および腐食生成物形成とその広がりとの相関を調査し,端面腐食抑制の指針を得る.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度度では,本年度作製したマルチ電気化学プローブシステムを利用して,端面腐食過程で生じる電気化学特性分布測定実験を引き続き遂行する.測定結果から,端面腐食過程において,電位分布から防食範囲が,電流分布から表面反応速度が,イオン分布と観察から腐食生成物の形成とその広がりを明らかにする. さらに,静電場-イオン輸送-化学反応を連成した端面腐食過程のマルチフィジックス解析のための数理モデルの構築と解析を行う.具体的には,端面腐食系における静電場-イオン輸送-化学反応を連成したマルチフィジックスシミュレーションを行う.端面腐食過程のモデリングは,端面腐食系のパラメータに対して系統的に取得した電気化学特性の数値データをもとに,電気化学反応,反応に関与するイオン種とその反応,その他の溶液特性を定義することで構築する.このモデルを利用して,亜鉛めっき層および鋼板溶解反応の活性度とそれらの時間変化をシミュレートする. 今年度は研究をより効率的に進めるために,マルチ電気化学プローブシステムの開発とともに次年度に実施する予定であったシミュレーションを進めた.プローブシステムは,より精密なステージ駆動システムが必要であるが,テストとして現有のものを代用することで,改良の必要があるかを検討することとした.これらの事情のため,予算計上していた物品購入に必要な予算が余る一方で,次年度購入予定のソフトウェアを今年度購入したため,残額が生じた.
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