本研究の目的は炭素鋼製の熱交換器,ボイラー等で生じるエロージョン・コロージョン/FACに関して,現場と同じ環境における等速試験を行い,流動条件だけでなく,環境中のpHや溶存酸素濃度の僅かな違いによって異なるエロージョンコロージョン/FAC発生条件のマッピングを行うこと,炭素鋼表面に形成される保護性皮膜の生長過程のその場観察を行うことで,浸食発生条件のマッピングの妥当性を証明することである. 炭素鋼の腐食模擬試験環境として,アンモニア水で調整されたpH 9.0,溶存酸素濃度50 ppb未満,温度140℃として撹拌型回転翼を用いた流動環境とした.回転子の周速0の静止状態から約3 m/sの範囲において炭素鋼および比較材のSCM435(低合金鋼)の腐食試験を行った結果,いずれの材料においても周速とともに腐食は指数関数的に増加した.その指数が材料によって異なることが分かった.ただし,同腐食環境のSCM435の腐食量は炭素鋼よりも少なく,SCM435の耐食性が確認された.また,温度140℃を固定した場合のpH 7~9,溶存酸素濃度50 ppb以下および以上の2種類の溶存酸素濃度で腐食試験を行った結果,pHが低く,溶存酸素濃度が50 ppb以下の方の腐食量が多いことが分かった.本試験環境では明確なエロージョンコロージョン発生条件はないことが分かった. 縮小/拡大型の矩形流路を用いた同試験環境における皮膜生長過程のその場観察では,光学顕微鏡の焦点深度では,明確な画像を得ることはできなかったが,粒状の皮膜の生長が観察された.縮小/拡大がおこる下流側の乱れが発生する領域では,試験直後から定常的な皮膜の生長は見られず,皮膜が形成される場所,形成されない場所が存在することが分かった.それに比べ,さらに下流側の乱れがあまり生じない箇所では比較的安定した皮膜が形成・生長することが分かった.
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