研究課題/領域番号 |
23560869
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
品川 一成 香川大学, 工学部, 教授 (30215983)
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キーワード | 材料加工・処理 / 機械材料・材料力学 / 数値解析 |
研究概要 |
焼結の素過程を再現するために開発した各手法について,計算パラメータを変えたシミュレーションを続け,基礎理論との比較検討や適用範囲の確認を行った.また,焼成実験によるデータ収集を続け,計算と実験の比較を行うことで,計算結果の妥当性を検証した.必要に応じ,モデルの改良も行った. 1.緻密化と粒成長:多結晶からなる粉末と,単結晶からなる粉末について,粒成長のシミュレーションを行った.多結晶からなる粉末粒子においては,粉末粒子内部で結晶粒成長が進み,粉末粒子が単結晶化した.2つの粉末粒子が同じ大きさの単結晶粒子である場合,接合部の粒界の移動は起こらなかった.これらの基本的な過程をシミュレーションで再現できることを確認できた.実験においてもこれらと矛盾ない結果は得られた. 2.異常粒成長:昨年度開発した計算コードを,平均粒径,粒度分布の設定をより正確に行えるよう改良し,計算を実行した.計算結果においては,粒度分布が狭い場合,異常粒成長の発生が遅れることが確認でき,実験で観察される現象と一致する結果を得ることが出来た. 3.拡散と緻密化:ユニットセルモデルにより2粒子間に生じた液相柱内での拡散と,溶解,析出を伴いながらの剛体運動を計算できるようにした.これにより,粒子表面の溶解析出による凹凸と柱の形状の変化を同時に計算することが可能となった. 4.収縮変形(焼結モデル):フェーズフィールド法と個別要素法の連成解析手法について,2球体モデルにおけるネック径や接近速度を計算した.古典的モデルによる計算結果とのよい一致が得られ,焼結モデルの妥当性を確認できた.また,多粒子に適用した場合の焼結力の導入方法を考案し,クラスターの収縮変形を計算できるようにした.さらに,引張の外力を作用させた場合,粒子が分離する過程を計算可能であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
焼結過程の解析の要素技術に関しては,焼結モデル,異方粒成長,構成元素の拡散について,それぞれの計算手法を改良し,より妥当な結果が得られるようになったと言える.それぞれの成果については,学会発表を行い,さらに次年度は国際会議で発表できるまでに成果がまとまった.ただし,液相柱の計算に関しては,有限要素のメッシュが乱れるなどの問題が生じており,今後の展開が遅れそうである.この点を除き,全体的には順調に伸展していると言える. 納入が遅れた振動式自動研磨機については,ノウハウを取得しつつあり,精度な研磨ができるようになってきた.これにより,FE-SEM/EBSD法による十分な観察結果が得られるようになった.ただし,試料によってはうまく研磨されない場合もあり,今後,さらに最適な条件を模索していく.研磨がうまくできた焼結体に関しては結晶学的な構造変化がわかるようになったので,焼成実験に関しても,おおむね順調に伸展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
1.3次元モデルへの拡張 フェーズフィールド法と個別要素法の連成解析手法の2次元モデルに関しては,妥当な結果が得られたので,これを3次元コードに拡張する.また,比較のための有限要素モデルも開発する.これは過去に開発した粒子境界拡散と粒内変形を連成させる手法を適用するもので,比較用により細かい要素を用いることにする.これにより,3次元モデルの妥当性の検証を行う. 2.実験による検証 昨年度の焼成実験では,粒界移動が起きていない決定的な証拠を得られたわけではなかった.そこで,ナノピンセットを利用した粒子配列装置(他研究室が別目的で購入)を借り,2球体およびクラスターを作製し,焼成を行う.これにより,計算モデルとの直接的な比較を行い,より精度の高い検証を行う. 3.実際の製品プロセスへの応用 実際の製品として,金属粉末射出成形で作製されたマイクロ構造体を選定する.当該プロセスの開発を研究している太盛工業㈱から,すでにいくつかの粉末成形体について,電子顕微鏡写真および寸法変化等のデータを受け取っている.これらを対象にシミュレーションを適用していくことで,本手法の有効性を確認する.
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次年度の研究費の使用計画 |
粉末成形体の焼結実験およびFE-SEM/EBSD法による組織観察のための粉末材料,ガスボンベ,研磨盤や砥粒などの消耗品の購入を行う. また,フェーズフィールド法と個別要素法の連成解析手法,フェーズフィールド法による異常粒成長のシミュレーションに関しては,それぞれ国際会議(13th International of the European Ceramic Soceiety, 12th International Conference on Ceramic Processing Science) にて成果を発表する.これらへの参加旅費に充てることを予定する. なお,3次元コード開発のためには,現在所有している計算サーバの能力では不十分となる可能がある.一方,最近のパーソナルコンピューターは,低価格でありながら,性能がより高くなってきている.従って,開発の効率化や,計算時間の短縮化のため,状況に応じ,計算サーバの更新も検討する.
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