研究課題/領域番号 |
23560876
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研究機関 | いわき明星大学 |
研究代表者 |
安野 拓也 いわき明星大学, 科学技術学部, 教授 (90262237)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 粉末冶金 / 放電プラズマ法 |
研究概要 |
本研究の目的である「放電プラズマ法による焼結において不明とされている極めて短時間に生じる緻密化現象や焼結機構の解明」において、放電プラズマ法による焼結体の作製と透過型電子顕微鏡による組織観察・元素分析を主な実験内容とし、セラミックスのナノ粉末によるナノ構造焼結体の作製およびアルミナナノ構造焼結体の微細構造解析による焼結プロセスの解明について研究を進めた。具体的には、平均粒子径が120nmで純度が99.99%のα-アルミナ粉末を用いて放電プラズマ法により焼結体を作製し、種々の焼結条件における機械的性質に及ぼす微細組織の影響や透過型電子顕微鏡による詳細な微細組織観察により、放電プラズマ法によるアルミナ焼結における特有の挙動を調査し、以下のことを明らかにした。(1) 焼結体の密度と曲げ強度は、焼結温度の上昇とともに増加し、1573Kで最も高い値を示した。また、1573K以上では焼結温度とともに密度と曲げ強度がともに低下した。(2)焼結温度が1573Kより低い場合には緻密化の進行とともに曲げ強度が増加し、1573K付近で緻密化が完了するために最大曲げ強度を示した。また、焼結温度1573K以上では、著しい粒成長により結晶粒が粗大化するため曲げ強度が低下した。(3)透過型電子顕微鏡観察より、緻密化が完了するまでと完了後の粒成長過程において、粒界三重点、二粒界上、さらには結晶粒内に多数の気孔が確認された。(4)焼結温度1673K以上では、粒界上に大きな気孔あるいは多数の気孔が確認され、これらの気孔の存在により曲げ強度が大きく低下した。また、本年度のアルミナナノ焼結体の作製において、加圧力100MPa、昇温速度200K/min、焼結温度1423~1573Kの焼結条件で透光性アルミナが合成できることが示され、透過率と微細構造の関連性についても調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、放電プラズマ法で不明とされている「極めて短時間に生じる緻密化現象」や「焼結機構」を明らかにすることを目的として、放電プラズマ焼結法により作製されたナノ構造焼結体について、透過型電子顕微鏡による詳細な微細構造解析により、セラミックス粉末における強固な粒界の形成プロセスの解明を行っている。申請時の本年度の目標として、アルミナのナノ粉末を用いて放電プラズマ焼結法によりナノ構造焼結体を作製し、透過型電子顕微鏡により粉末粒界付近の詳細な構造解析を行い、「ネック発生→緻密化→粒界上での気孔の生成→粒成長」と考えられている焼結プロセスを直接確認することとした。本年度の成果として、平均粒子径120nmのナノアルミナ粉末を用いて放電プラズマ法により焼結体を作製することで平均粒径200~500nmのナノ構造焼結体を作製することが可能となり、得られた焼結体から薄膜試料を作製し、透過型電子顕微鏡による詳細な微細組織観察を行った。微細組織観察の結果より、緻密化完了前の状態で粒子間にネックが形成されている組織写真の撮影に成功した。さらに、緻密化の進行とともに粒子同士の結合が進んでいる組織写真も得られている。また、焼結温度の上昇とともに粒界三重点と二粒界上に気孔が発生するとともに粒成長が進行していることも確認された。これまでは、緻密化の完了後に気孔が生成すると考えられていたが、本研究の詳細な微細組織観察から緻密化過程から粒成長が進行しており、粒成長の進行とともに気孔が発生することが明らかとなった。このように申請時の本年度の目標である焼結プロセスの直接確認はほぼ達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、「高分解能電子顕微鏡によるアルミナナノ構造焼結体の微細構造解析」を進める。具体的には、本年度の研究で明らかになった焼結条件にて作製されたアルミナナノ構造焼結体について、曲げ試験片を作製し、曲げ試験後の破面において粒界が確実に観察できる場所を高エネルギーイオン加工法によりピンポイントで薄片化し、透過型電子顕微鏡で観察可能な薄膜試料を作製する。その後、本年度の研究で判明した緻密化の後に粒界上に形成される気孔が焼結機構に大きく関与していると考えられるため、気孔付近を重点的に透過型電子顕微鏡により高分解能観察を行い、粒界あるいは気孔の構造解析を行う。さらには、高分解能観察を行った粒界付近と気孔近傍を走査透過電子顕微鏡法によるナノプローブモードで超微少領域のAl、Oなどの定性・定量分析を行う。また、本年度の研究成果として、加圧力100MPa、昇温速度200K/min、焼結温度1423~1573Kの焼結条件で高透過率のナノ構造アルミナ焼結体が合成できることが明らかとなった。しかしながら、透過率と微細組織の関連性については十分に検討されていない。そこで、今後はナノ構造を有した透光性アルミナ焼結体についても詳細な微細組織観察を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、本年度同様に主として透過型電子顕微鏡による微細組織観察を行う。そこで、透過型電子顕微鏡観察用薄膜試料を作製するための研磨用消耗品として、ダイヤモンド砥石、耐水研磨紙、ダイヤモンド研磨剤、さらには高エネルギーイオン加工のための原料ガス、アノード・カソードなどの購入が必要であり、消耗品費として計上する。また、放電プラズマ法では、粉末をグラファイトのダイとパンチに挿入して通電加熱を行うため、グラファイト加工品が必要となり、これらの費用をグラファイトダイ・パンチ代として計上する。さらに、春と秋の粉体粉末冶金協会での研究発表、10月14日~18日に横浜で開催される国際会議Powder Metallurgy World Congress & Exhibitionでの研究発表のための旅費および論文投稿料・印刷費も計上する。
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