今年度は、ex situパウダー・イン・チューブ法によるテープ材の作製において、MgB2化合物のホウ素の一部を炭素で置換した線材を作製し、その超伝導特性と微細組織との相関を調べた。本線材の作製では、まず、MgB2粉末に少量のB粉末と鉱油を添加し、ボールミルでMgB2粉末の大きさがミクロン以下になるまで粉砕混合した。この混合粉末を純鉄及びS45C炭素鋼の管に充填し、圧延加工によって厚さが0.4 mmのテープ材に加工後、熱処理を施した。純鉄シース材の作製では、無焼鈍で線材の作製を行うことができたが、S45Cシース材では、焼鈍を施しても線材に割れが生じ、1 m以上の長さの線材を作製できなかった。臨界電流は、磁界がテープ面に平行な場合と垂直な場合において、磁界依存性に異方性が生じ、純鉄シース炭素置換したMgB2線材は、異方性が生じ始める磁界が、無置換の線材に比べ約3T高くなった。磁界とテープ面が平行な場合、炭素置換線材では、12Tの磁界中で5Aの臨界電流値を示し、無置換の線材に比べ、大きな特性の改善が得られた。また、X線回折法で調べたMgB2(001)結晶面の極図形の測定結果において、炭素置換したMgB2線材は、無置換の線材に比べ、圧延面に平行な(001)面の極密度が大きい集合組織を有することが明らかになった。 一方、集合組織を持つ粉末の作製のために、磁界中でスリップキャスト法を試みる実験では、昨年度に作製したMgB2バルク試料について、外部磁界に垂直なバルク試料の表面のX線回折図形を調べた。その結果、(001)強度の(101)強度に対する相対強度は、結晶方位が無秩序な場合の値よりは大きいものの、S45Cシースの線材の場合よりは小さな値しか得られなかった。本バルク試料を粗く砕いた粉末を純鉄製の管に充填して作製した線材の臨界電流値は、無磁界中で1.5Aという低い値であった。
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