研究課題/領域番号 |
23560886
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
出村 雅彦 独立行政法人物質・材料研究機構, 水素利用材料ユニット, 主任研究員 (10354177)
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研究分担者 |
井 誠一郎 独立行政法人物質・材料研究機構, 元素戦略材料センター, 主任研究員 (60435146)
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キーワード | ニッケルアルミナイド / 集合組織 / 強圧延 / 再結晶・粒成長 / 金属間化合物 / 単結晶 / 複相 / 結晶方位解析 |
研究概要 |
強冷間圧延したNi3Al単結晶では、再結晶・粒成長過程で、結晶方位が記憶される興味深い現象(集合組織記憶効果)が現れる。しかし、Ni3AlがNi固溶体に整合析出したNi3Al/Ni複相合金では、これが発現しない。本研究では、集合組織記憶効果が発現する組成範囲を決定し、集合組織記憶効果の発現に欠かせない組織因子を特定する。 前年度までに、Ni固溶体単相単結晶では集合組織記憶効果が発現しないことを明らかにし、組成範囲を決定した。 今年度は、Ni3Al/Ni複相合金及びNi固溶体について、集合組織記憶効果の発現を阻害している原因を検討した。Ni3Al/Ni複相合金では、Ni3Alと同様、再結晶で40度<111>回転粒が多数を占めるものの、集合組織記憶効果は発現しない。断面組織観察の結果、粒成長はNi3Al/Ni位相界面に強く律速されていた。また、40度<111>回転粒のうち、一つのグループだけが粒成長が早かった。このグループだけが位相界面を超えて速く成長するのに対し、他方位粒は位相界面に阻まれて成長が遅くなったと解釈できる。 Ni固溶体では、Ni3AlやNi3Al/Ni複相合金と違い、再結晶組織に40度<111>回転粒が少なく、焼鈍双晶が頻繁に観察された。再結晶粒は粗大で、再結晶核の生成密度が低い。つまり、再結晶粒同士がぶつかるまで相当の距離を粒界が移動しなければならなかったと推論でき、その粒界移動中に発生した焼鈍双晶が再結晶集合組織をよりランダム化したと考えられる。このような40度<111>粒が少ない再結晶集合組織のもとでは、集合組織記憶効果は発現しなかったと結論できる。 最終年度は、絞り込んだ組織因子について検証実験を行い、集合組織記憶効果発現の条件を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにNi固溶体単相単結晶の結果が得られ、集合組織記憶効果が発現する組成範囲を決定することが出来た。今年度さらに、Ni3Al/Ni複相合金及びNi固溶体のそれぞれについて、詳細な組織観察を行い、集合組織記憶効果の発現を阻害している組織因子についても検討した。以上のように、集合組織記憶効果の発現に必要な条件を得るという目標に向けて順調に進んでいる。 今年度後半からは、在外派遣で、ドイツ鉄鋼研究所に滞在している。ドイツの集合組織研究は歴史が長く、本研究対象についても、有益な知見が得られると期待される。ドイツ滞在中の実験については、研究補助を雇用して、滞りがないようすすめている。 以上の通り、最終年度に目標である、集合組織記憶効果発現に欠かせない組織因子を特定できると見込んでいるす。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、検証実験や文献調査、専門家との議論を行いながら、集合組織記憶効果の発現条件を検討する。これまでの考察について次の2点の実験的な検証を加える。第一は、Ni3Al/Ni複相合金について、Ni3AlとNi固溶相を峻別した定量組織解析である。これまでに、位相界面が、特定の40度<111>回転粒グループの選択成長に関わっていることがわかってきた。40度<111>回転粒の選択成長に及ぼす位相界面の影響を明らかにするためには、40度<111>回転粒を、Ni3AlとNi固溶相に分けて、定量的に分析する必要がある。これまでに、分担研究者が、透過電子顕微鏡搭載の新しい方位解析装置にて、この分析をこころみてきたが、Ni3AlとNi固溶相を峻別しつつ、方位を自動解析するのは難しかった。そこで、新たに、走査電子顕微鏡搭載の方位解析装置と組成分析装置とを組み合わせて、解析を試みる。 第二は、Ni固溶体について、より高い圧延率の実験を追加する。これは、歪みエネルギーを出来るだけ蓄積して、より高い再結晶核生成密度を得ることを意図している。十分に細かい再結晶組織が得られれば、Ni固溶体であっても、集合組織記憶効果が発現する可能性を検証するためである。 文献調査や専門家との議論は、ドイツに在外派遣中である地の利を生かし、これまで、文献を手に入れることが出来なかったCu-Znの先行研究について調べたい。ドイツ・アーヘン工科大学Gottstein教授は1984年に発表した論文で、Cu-Zn多結晶合金で類似の集合組織記憶効果が報告されていると先行研究を紹介している。しかし、それはアーヘン工科大学博士論文で取り寄せて読むことが困難であった。ドイツ滞在の機会に、博士論文を読み、さらにGottstein教授と議論し、他の金属の結果と比較したい。 以上を通して、集合組織記憶効果発現の組織因子特定を達成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
単結晶試料の作製は順調に進み、予定していたよりも、材料費等の支出を節約できた。一方で、2012年8月から1年間ドイツ・マックスプランク鉄鋼研究所にて在外研究を行うことになったので、日本での実験・研究を進めるために、特別研究員を雇用することにした。最終年度である次年度も同様に、特別研究員を雇用し、研究を効率的に進める。また、追加で必要と見込まれる実験のための消耗品を購入するのにも、使用する予定である。他に、ドイツ滞在の機会を活かして、他合金系での集合組織記憶効果の例について専門家と議論を進めるために、ドイツ国内での旅費を使用する。さらに、後半には、国際会議への参加・発表を計画しており、そのための費用に用いる。
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