研究課題/領域番号 |
23560888
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研究機関 | 兵庫県立工業技術センター |
研究代表者 |
柴原 正文 兵庫県立工業技術センター, ものづくり開発部, 主席研究員 (80470219)
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研究分担者 |
本田 幸司 兵庫県立工業技術センター, 材料技術部, 研究員 (20553085)
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キーワード | 高周波 / プリント回路基板 / PTFEシート / 銅被膜 / 平滑化 / 密着強度 / 大気圧プラズマ / 表面改質 |
研究概要 |
高周波帯のプリント回路銅被膜は、表面平滑性ならびにPTFEシート基板との密着強度が求められる。銅被膜表面は基板のPTFEシート表面の平滑性に大きく影響され、また銅被膜の密着強度はPTFEシート表面の親水性官能基の生成密度に大きく影響される。PTFEシートは焼成樹脂材をスカイブド成形されるため、シート表面には無数の切削痕、繊維くずの残渣や焼成孔が存在する。従って表皮効果の観点から、PTFEシートの表面平滑性が必要である。今回、圧延加工によって表面平滑性が付与されたPTFEシートを用いた。ダイレクト型大気圧プラズマ処理装置を用いて、表面改質で密着性に寄与する親水性官能基を生成させた。プラズマ処理では、試料表面にエッチングとラジカル反応の2つの作用が同時に働く。昨年度に実施した大気圧プラズマ処理では、PTFEの主鎖にダメージを与えて表面材料強度を低下させ、また、側鎖に形成できた親水基の密度が低い結果であったため、バインダー層である有機シラン化合物の蒸着膜が均一には生成されず、銅メッキ被膜の密着強度を向上させるには支障となったものと考えられた。一方、湿式のテトラエッチ処理では、エッチング作用が抑制された上で、脱フッ素化ならびに親水性官能基を形成する化学反応が同時進行してほぼ充分な表面改質が施される。PTFEの主鎖にダメージを与えることなくソフトな表面改質が可能である半面で、廃液処理問題を抱える。そこで、表面平滑性を有するPTFEシートを用いて、ソフトな表面改質が乾式の大気圧プラズマ処理を適用して可能かを検討した。具体的には、大気開放条件において電極間に所定のガス組成比に混合した励起ガスを供給し、電極には必要最低限の高周波パルス電力(50W、Duty50%、13.56MHz)を印加させて安定的に発生させたグロープラズマをPTFEシート表面に照射して、脱フッ素ならびに親水化を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大気開放条件において従来型の誘電バリア放電型電極間に所定のガス組成比に混合した励起ガスを供給し、電極には必要最低限の高周波パルス電力(50W、Duty50%)を印加させて安定的に発生させたグロープラズマをPTFEシート表面に照射して、脱フッ素ならびに親水化の表面改質を試みた。先ず、ヘリウムに水素を添加(2~4vol%)したプラズマ照射で、水素還元作用による試料表面の脱フッ素効果が生じ、XPS分析でC1sピークが-CF2から-CH2へシフトする結果が得られた。蒸留水の接触角が80°と親水性がやや高まった。次に、ヘリウムプラズマ照射を極めて短時間施したところ、XPS分析で水酸基やカルボキシル基などの親水性官能基の生成が認められた。ヘリウムプラズマを発光分光分析すると、大気開放下であるため-OHと-Oのピークが観察された(特に100kHzパルス印加)。また、励起ガスの供給流速が大きく、ギャップ量が小さく、試験片走査往復回数を多い条件では、親水性官能基の生成が明瞭(XPS分析の酸素組成比10%、接触角40°)に認められた。プラズマ直下の試料近傍温度は、30℃程度上昇する測定結果であったため、PTFEシートの物性ダメージの要因とはならないと推定された。なお、より反応性が高い結果が期待される50W以上のパルス電力条件では、本実験装置で発生するプラズマ内にはストリーマが数多く発生して不安定となるため、局部的ダメージが生じるものと考えられた。そこで、ストリーマ発生が支障とならないリモート型電極構造の試作として急遽簡易的な改造を検討した。しかし、今回試作した実験装置では大気圧開放下で励起されたラジカル種が試料表面に到達する前に消滅したためか、表面改質効果が得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
試料表面の表面改質データ(XPS、接触角、AFM)を、プラズマ内部パラメータ(荷電粒子の種類、プラズマ直下温度)から類推できるように、より多くの実験データ(広範囲のガス組成における)を蓄積する必要がある。今後、これらのデータを基にして、大気圧プラズマ処理を用いたPTFEシートの平滑化ならびに親水性官能基の生成をともに満足する処理条件を究明する。そして、我々の既存技術(全く化学的な手法であるSAM膜形成・真空紫外線露光パターニング・銅メッキ被膜のフルアディティブ積層処理)を適用することによって、100ギガヘルツ~テラヘルツ帯オーダーの動作周波数で高速駆動させる際に必要不可欠となるプリント回路基板を開発する。本年度得られた知見は、励起ガスにヘリウムが不可欠な従来型の誘電バリア放電型電極を用いた大気圧プラズマ処理を実施した。今後はより低コスト化をねらって、励起ガスに大気・窒素等を用いるリモート型大気圧プラズマ処理装置の適用も検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
大気開放型大気圧プラズマ処理装置は大気成分が浸入するため、プラズマ内部で存在する荷電粒子を特定するには非常に難しい。そこで、ガスを溜め込むチャンバー型プラズマ処理装置を用いて、プラズマ内部で発生する荷電粒子に関する基礎的な物性データを取得する。その結果を基にして、大気開放型大気圧プラズマ処理装置を用いた追試を行い、均一な有機シランSAMが生成する処理条件を精査していく。また、触媒金属の吸着量ならびに銅めっき皮膜の密着強度の向上についても検討する。
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