研究課題/領域番号 |
23560899
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鳥塚 史郎 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (60354271)
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キーワード | SUS304 / 結晶粒超微細化 / 非磁性 / 高降伏点化 / 温間加工 |
研究概要 |
準安定オーステナイトであるSUS304鋼は降伏点が低いことがしばしば問題とされる。この降伏点を高くする簡単な方法は冷間加工である。冷間加工によって強度は約2倍以上になる。しかし、冷間加工を加えた場合、加工誘起マルテンサイト変態が生じ、磁性を持つようになってしまう。これは、マルテンサイトは強磁性体のフェライトであり、磁性を有するからである。一方、オーステナイトがより安定な方向である温間加工は、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する可能性がある。同時に、温間加工域における強加工によって、結晶粒の微細化が可能であり、非磁性を維持したまま、高降伏点を実現できる可能性がある。本研究では、温間加工および結晶粒超微細化によって、SUS304鋼で非磁性・高降伏点ステンレス線の開発可能性を検討している。 平成23年度研究では、温間加工によって、マルテンサイト変態が抑制された状態で、高降伏点化できることを明らかにした。500℃で圧延を行った材料の透磁率は1.015であり、ほほ非磁性といえた。また、結晶組織も極めて微細であった。以上のことより、温間強加工によって、非磁性・高降伏点SUS304オーステナイト線材開発の可能性を明らかにした。 平成24年度研究では、非磁性・高降伏点長尺線材の作製を試みた。圧延方法は、我々グループが開発した連続温間圧延機を用いて、圧延温度500℃で、3工程6パスCoil to coil圧延を行った。圧延に用いた孔型はオーバル・スクエア孔型であり、6パス後には、大ひずみが導入できるものである。本線材は、初期直径6mmから約直径3mmmまで圧延された。磁石に着くことがなく非磁性であった。引張試験を行ったところ、YS=1020MPa, 全伸び18%、絞り74%を得た。この結果、通常のSUS304鋼の3倍の降伏強さを得たことになる。線材レベルでの非磁性高降伏点化に到達できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微細粒組織を持つ長尺線材の製造のための連続温間圧延において、SUS304鋼で、非磁性、高降伏点化を達成できたため、2年度としては、目標通りに結果を出すことができたと考える。 (1)炭素鋼で有効であった連続温間圧延をSUS304鋼に適用するときに、500℃という圧延温度を実現する必要があったが、高周波加熱装置の出力を制御することによって、連続加熱が実現できた。その結果、連続温間圧延が可能となり、今回の線材が製造できた。 (2)SUS304鋼の降伏点は300MPa程度であるが、それを1000MPaにまで上げることができた。しかも、非磁性が維持されていた。 (3)EBSD解析の結果、超微細粒の生成が認められた。しかし、加工組織の存在も確認された。オーバル・スクエア孔型による圧延によって、超微細粒組織を得ることができることを、SUS304においても確認できた。しかし、加工組織も存在しており、全面等軸微細粒組織にするにはどうすべきかという課題を得た。 以上のことより、温間連続圧延によって、非磁性・高降伏点SUS304オーステナイト線材開発の可能であることが確認できた。温間伸線技術の開発については、3年目に持ち越した。 本SUS304線材をモーターシャフトに使った場合、非磁性であることによって、効率がどのくらい上昇するかを調べる必要があるが、そのためのモータトルク測定装置を、別予算で購入した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)温間連続圧延での組織微細化 EBSD解析の結果、超微細粒の生成が認められた。しかし、加工組織の存在も確認された。オーバル・スクエア孔型による圧延によって、超微細粒組織を得ることができることを、SUS304においても確認できた。しかし、加工組織も存在しており、全面等軸微細粒組織にするにはどうすべきかという課題を得た。圧延温度の検討やオーバル孔型亜圧延、スクエア孔型圧延の速度比の検討によって、全面等軸微細化が可能かを検討する。 (2)温間伸線技術の開発 温間連続圧延での最小径は約3mmなので、1mmまで直径を減少させるのに、伸線が必要であるが、温間で伸線を行い、その組織・強度変化を調べる。同時に、加工誘起マルテンサイト変態が生じるかを調べる。方法としては、EBSDおよびSQUIDを用いて、組織およびB-Hカーブの観点から調査する。 (3)モータ効率の測定 非磁性高降伏点SUS304線材をモーターに組み込み、モータトルク測定装置(別予算で購入)によってモータ効率を測定する。比較として、同レベルの降伏点を持ち、磁性をもった線材を用意し、比較を行う。モータ効率の上昇を確認し、非磁性・高降伏点SUS304線材の工業的意義を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
温間伸線技術の開発のために、以下の研究費を用いる。 研究補助員費 2,000千円 消耗品 素材 圧延ロール 伸線ダイス 700千円 旅費 300千円
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