研究課題
糖によって形成された非晶質固体(アモルファスマトリクス)は食品・医薬品において不可欠な素材である.本研究では,種々の糖類アモルファス試料について,個々の状態にある収着水の量を解析し,各試料の物理化学的特性と突き合わせることで,個々の収着状態にある水の物理化学的特性に対する寄与(機能)を明らかにすることを目的としている.平成23年度までに収着水には5つの収着状態(i~v)が存在し,それらの内,高度な相互作用状態にある三つ(iii-v)の収着状態の水が可塑化作用を担っていることを明らかにしてきた.平成24年度はこれらの知見に基づき,糖類アモルファスマトリクスの物理的安定性を改善する手法として高圧処理による吸湿性の低減について検討した.その結果,0~443 MPaの圧縮圧力で高圧処理した後,一定蒸気圧下で吸湿させると(i)および(ii)の収着水が選択的に減少するのに対し,圧縮圧力が443 MPa以上になると(iii-v)の収着水が顕著に減少することが分かった.種々の圧力で高圧処理した調湿試料(高圧処理→調湿)のガラス転移温度,Tgを示差走査熱量計で測定した結果,圧縮圧力が443 MPaまではいずれのRHで調湿した場合も高圧処理によるTgの変化は認められなかったが,圧縮圧力がそれ以上になるとTgは顕著に増加することがわかった.これらのことから,約450 MPa以上の圧力で高圧処理すれば,可塑化作用を有する収着水を減少させ,その結果,糖類アモルファスマトリクスを安定化できることが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
再現性・効率とも良好に実験データが蓄積されつつある.測定装置や実験設備の故障等の大きな遂行上の問題も生じなかった.糖類アモルファスマトリクスの物理的安定性の改善に繋がる手法についても見出すことができた.
糖類の分子構造(グルコシド結合および分子量)により圧縮圧力と物理的安定性の関係がどのように変化するのか系統的に調査していく.また,次年度は,そもそもなぜ“5つ”なのか?そして,各状態の水の相互作用形態を明らかにしていく.バルク水中の水分子の相互作用状態については以前から研究例があり,各束縛状態における分子(配座)構造も報告されている.そこで,バルク水のIRスペクトルを測定・解析し,バルク水中の各相互作用(束縛)状態と非晶質固体に収着した水の五つの束縛状態について吸収波数を比較・突合することにより,非晶質固体における五つの収着(相互作用)に一定の解釈を与えられると考えられる.
研究を遂行する上で,試料調製用に種々の糖や塩類が不可欠である.また,IRスペクトル測定および熱分析には,それぞれKBr粉末とアルミ製サンプルパンを著量使用し,さらにいずれの測定においても大量の窒素ガスを要する.これらの消耗品購入と学会・論文発表経費として研究費を計上している.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)
Journal of Pharmaceutical Sciences
巻: 102 ページ: 2187-2197
10.1002/jps.23568
Food Research International
巻: 51 ページ: 201-207