研究概要 |
感温性のN-isopropylacrylamideとカルボキシル基を持つアクリル酸 (AAC)を共重合し、イオン性感温性ゲルを合成した。このゲルは転移温度(約35℃)以下では膨潤してカルボキシル基がイオン化することで陽イオンを吸着し、転移温度以上では収縮して陽イオンを脱着すると考えられるが、具体的な吸脱着メカニズムは明確になっていない。そこで、イオン半径の異なる3種類のアルカリ金属イオン(Li+, K+, Cs+)を用いて、吸脱着機構を検討した。 まず、AAC共重合率が異なるゲルを用い、20℃、50℃での吸着等温線を、Langmuirプロットと比較すると、実験値とプロットは、ほぼ一致した。即ち陽イオンは特定の吸着サイト(カルボキシル基)に吸着していると考えられる。また、全てのイオン種においてAAC共重合率が高いほど吸着量は多くなったが、共重合率がある程度高くなると、吸着量に大きな差は見られなくなった。これは吸着サイトであるAACの共重合率のみを上げても、複雑なゲルネットワークによって陽イオンがゲルの奥まで拡散できず、一部の吸着サイトが有効に使われなかったためと考えられる。また、K+とCs+については低温時の吸着量の方が高温時よりも多くなったが、Li+ではその差があまり見られなかった。これは、低温ではゲルが膨潤し高分子網目の密度が高温時に比べて低いため、全てのイオンが自由に吸着サイトに吸着できるが、高温ではゲルが収縮し網目密度が増加するため、イオン半径が大きなK+やCs+は吸着サイトと接触しにくかったと考えられる。 以上より、共重合ゲルを用いて陽イオンの吸脱着機構を検証し、外部溶液の温度変化のみによって陽イオンを繰り返し吸脱着可能な吸着材を合成可できた。また、合成時の組成により、高分子網目のサイズを変えることでイオン半径の異なる陽イオンの選択的吸着分離の可能性が示唆された。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費(直接費)の使用計画は、物品費を\1,150,000計上しているが、内訳は、消耗品\800,000(吸着剤合成要試薬:\300,000、合成用ガラス器具:\150,000、樹脂製消耗品:\50,000、分析用カラム:\250,000とpH電極:\50,000)設備備品費:\350,000(振盪器用低温恒温チャンバー:\350,000)である。ゲルを合成、物性の測定のために、ガラス器具、試薬・薬品、プラスチック製器具(ピペットチップ、遠沈管)などの消耗品が毎年必要となる。HPLCカラムは、イオン濃度の測定に必要であり、pH測定用ガラス電極は、破損を考慮して1本分計上した。振盪器用低温恒温チャンバーは吸着材の温度と吸着特性の関係を測定するために使用する振盪器の温度を制御するために必要である。 旅費として計上した\500,000の内訳は、8月に米国、ジャクソンホールで開催される、Polymer Gels & Networksでの、成果発表と情報収集のための参加旅費\400,000と国内での主に化学工学会での成果発表と情報収集のための参加旅費\100,000である。 その他\50,000は、主に学内共同施設である、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)の使用料(\1,000/hr)である。以上、合計\1,700,000を次年度の研究費(直接費)として計上し、研究代表者(後藤)に\1,500,000、研究分担者(迫原、飯澤)に\200,000を分担する。
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