研究課題/領域番号 |
23560912
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
山村 方人 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90284588)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 塗布膜 / コーティング / 相分離 / 乾燥促進 / 高分子溶液 |
研究概要 |
本研究では,膜表面からの溶媒乾燥を50%促進する技術を開発すること、並びにその促進機構を明らかにすることを目的として、界面活性高分子と非活性高分子からなる複合層を塗布膜表面に形成させた場合の精密乾燥速度計測を行った。 末端をヒドロキシル基で修飾したポリジメチルシロキサン(PDMS)のメチルエチルケトン溶液に10%酢酸酪酸セルロースを添加すると、乾燥後期の溶媒乾燥速度が約47%増加することを初めて見出した。この値は乾燥促進の上述目標値にほぼ近い。さらに顕微鏡観察から膜表面には非活性高分子が形成するrigid相と、界面活性高分子が形成するflexibleな吸着層とが共存した海島型相分離構造が分布していることがわかった。これらは当初の予想通り、高分子成分の相分離によって、溶媒が高速拡散可能なナノ拡散パスが気液界面近傍に作成されることを示唆しているものと考えられる。 しかしながら初期膜厚を増加させるとこの乾燥促進効果は急速に消滅し、膜厚800ミクロンにおける促進率はわずか2%であった。さらに末端基をカチオン性アミノプロピル基に置換したところ、溶媒乾燥は逆に21%遅くなり乾燥抑制効果が現れた。そこで異なる3種類の膜厚および温度、4種類のPDMS末端基分子構造、4種類のPDMS質量分率に対して同様の検討を行ったところ、乾燥促進の有無を決定する臨界相分離速度が存在することが明らかとなった。測定結果から得られたその臨界値は約30nm/sであり、分離速度が臨界値より小さな場合には乾燥促進効果が、逆に大きな場合には乾燥抑制効果が観察された。 乾燥抑制効果については、溶媒分子が分離相界面へ自己集積したシェルを形成するとした「溶媒シェル仮説」が提案されている。乾燥速度変化が相構造の成長に依存することを示した今回の結果はこの仮説をサポートするものと考えられ、学術的にも重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末端をヒドロキシル基で修飾したポリジメチルシロキサン(PDMS)のメチルエチルケトン溶液に10%酢酸酪酸セルロースを添加した場合、液体薄膜の乾燥速度が無添加の場合と比較して約47%増加することを見出している。この数値は当初の促進目標としていた50%にほぼ等しく、高速乾燥を目指す目標をほぼ達成している。更に臨界相分離速度の速度差によって乾燥促進、抑制が区分されることを見出しており、現象の詳しい物理的メカニズムについてはまだ不明な点が残っているものの、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
溶媒が高速拡散可能なナノ拡散パスが形成される機構を考察するには、気液界面でのPDMSの吸着状態を把握することが必要である。そこで既保有のWilhelmy式表面張力計を活用し、表面張力データをLangmuir型の吸着等温式にfittingすることで吸着・脱着速度定数の比を算出する。更に前年度に導入した最大泡圧法に基づく動的表面張力測定によって、気泡を約40msで液中に生成することで、過渡的な吸着挙動を検討する。 前年度の結果から、相分離挙動が溶媒拡散に大きな影響を与えていることが明らかである。そこで相分離過程に着目した熱力学的特性の評価を行う。具体的には既保有のUV-VIS分光光度計を用いて溶媒を含む3成分系の相分離開始組成(バイノーダル線)を測定し、Flory-Huggins理論に基づく熱力学的平衡式にfittingすることにより界面活性高分子-非活性高分子間の相互作用(χ)パラメータを決定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度に購入した動的表面張力測定装置が年度末の納品となったため、予定していた測定消耗品分の予算約30万円を次年度に繰り越した。そこでH24年度は繰越分を含めた60万円をガラスセル等の消耗品に、35万円を研究発表のための旅費に、5万円を論文校正、印刷費用にそれぞれ充当する。
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