研究課題/領域番号 |
23560912
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
山村 方人 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90284588)
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キーワード | 塗布膜 / コーティング / 相分離 / 乾燥促進 / 高分子溶液 |
研究概要 |
前年度までに,末端をヒドロキシル基で修飾したポリジメチルシロキサン(PDMS)のメチルエチルケトン溶液に酢酸酪酸セルロース(CAB)を添加すると乾燥後期の溶媒乾燥速度が47%増加することを見出した。これは当初の予想通り,溶媒が相界面に集積することで新たな拡散パスが気液界面近傍に形成されることを示唆しているが,溶媒集積層の存在を実験的に示した研究はこれまで皆無である。そこで本年度は溶媒に可溶な蛍光色素を,高分子間の相分離構造を乱さない程度に微量添加し,乾燥過程における相界面近傍での面内2次元蛍光強度分布をリアルタイム計測することで,溶媒集積層の存在を実証する試みを行った。乾燥促進現象が生じる上記のポリマーブレンドについて検討を進めたところ,i)PDMS相は溶媒相よりも低い蛍光強度を示すのに対してCAB相は極めて高い蛍光強度を示し,蛍光分布計測によって両相の同定が可能であること,ii)両高分子を均一に混合させた場合には,全高分子に対するPDMS質量比が増加するにつれて蛍光強度は単調減少すること,iii)乾燥過程ではPDMSリッチ相とCABリッチ相の界面に,均一混合系では見られない蛍光強度の平坦部が観測されることなどを見出した。このうちiii)の結果は均一な溶媒分布場では説明できず,むしろ相界面に特異的に溶媒が集積した層の存在を考慮した場合の予測と矛盾しない。これは溶媒集積層の存在を実証した初めての結果であり,工学的応用ヘ向けた基礎的な現象理解を推し進めるものであると同時に,学術的にも重要である。ただし現時点の検討な上記高分子ブレンドに限られており,より幅広い種類のブレンド系において同様に溶媒集積層の存在を実証することが求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は分離した相界面における溶媒集積層の存在を初めて実験的に明らかにした。更にこの集積層が存在する条件下で溶媒乾燥が促進されるという事実を示した。すなわち申請者は,溶媒が相界面に集積することで新たな拡散パスが気液界面近傍に形成されることを示すことに成功している。対象溶液系がまだ一部に限られているものの,非平衡溶液内での拡散・乾燥現象に新しい解釈を与える成果が得られていることから,研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度より開始した蛍光強度分布測定を,末端基が異なるポリジメチルシロキサン溶液へと展開する。過去の検討から,末端基をヒドロキシル基からアミノ基やエーテル基へ変更すると,分子量がほぼ等しい場合でも表面張力や溶液安定性が変化することが分かっている。そこでH23年度末に導入した動的表面張力計を用いて,気液界面でのポリジメチルシロキサンの吸着状態の評価を最大泡圧法に基づいて行う。得られた界面状態と,乾燥速度と蛍光強度分布のリアルタイム測定を合わせて考察することで,分子構造の違いによる乾燥速度変化を説明可能な物理モデルを新たに提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H23年度に購入した動的表面張力計が年度末の納品となったため,測定消耗品分の予算30万円がH24年度に繰り越されている。H24年度はほぼ計画通り支出しており,初年度繰越の30万円は最終年度であるH25年度へ繰り越される。そこでH25年度は,前年度までの繰越分を含む約100万円のうち30万円をガラスセル等の消耗品に,40万円を研究発表のための旅費に,30万円を論文校正および報告書印刷費にそれぞれ充当する。
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