研究課題/領域番号 |
23560927
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
黒川 秀樹 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50292652)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 不均一系触媒 / 層状粘土鉱物 / 合成フッ素マイカ / エチレン / オリゴメリゼーション / α-オレフィン / 置換基効果 / ポリエチレン |
研究概要 |
エチレンからα-オレフィン類を効率よく製造可能な高活性不均一系触媒の開発を目的として、層状粘土鉱物層間にイミノピリジン系配位子を有する鉄、コバルトおよびニッケル錯体を固定化した触媒を調製し、エチレンのオリゴメリゼーションを行った。平成23年度は、配位子の骨格構造と活性の関係を調べるために、主としてピリジン環オルト位の置換基について検討を行ったところ、置換基の種類によって活性が大きく変化することが分かった。一連の合成した配位子の中では、オルト位にアセチル基を有するアセチルイミノピリジン配位子から調製した鉄触媒が非常に高活性であった。一方でアセチル基をエチルオキシカルボニル基、チエニル基、フェニル基、ブロモ基等に置換すると活性は極めて低くなり、アセチル基のみが特異的な効果を示した。また、調製した配位子を用いてコバルトおよびニッケル系触媒についても検討を行ったが、これらの触媒ではほとんど活性が発現しなかった。調製した触媒の中で活性の高かったアセチルイミノピリジン鉄触媒について、イミノフェニル基の置換基効果について検討した結果、フェニル基上のオルト位の置換基が生成物分布に大きく影響すること、置換基がアルキル基(電子供与基)の場合にはその数が多いほど活性が高くなること、などが明らかになった。また、本触媒は工業的に有用な炭素数4から20程度のαーオレフィン類を高収率で生成すること、生成したα-オレフィンの再取り込みが起こらないために直鎖のα-オレフィンを高選択的に生成すること等の優れた性能を有することが分かった。なお、アセチルイミノピリジン鉄触媒によって得られた一連の成果を速報論文として公開した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画では、イミノピリジン系の配位子の中で、主として触媒活性、生成物分布に対するピリジン環オルト位の置換基効果について検討することを目的としていた。23年度の検討では、概ね予定していた配位子の合成と評価ができており当初の目標は概ね達成されているが、調製した触媒の多くがエチレンのオリゴメリゼーションに対して活性をほとんど示さず、配位子の立体構造や電子的効果と触媒活性との関係を明確にすることができなかった。この原因としては、エチレンのオリゴメリゼーション触媒においては、配位子の立体的、電子的な性質がわずかに変わるだけで、触媒特性が大きく変化してしまうためであり、これは研究計画作成時点から考えると予想外の結果であった。一方でイミノフェニル基上の置換基効果については、当初の予想通り、フェニル基上の電子供与基(アルキル基)を増加させると触媒活性が向上すること、オルト位置換基の立体的効果により生成物の分布が制御できること等、今後の触媒設計に有用な知見が得られたことから、研究計画に沿った成果が得られたと結論した。ピリジン環オルト位の置換基を変えて調製した触媒の中で唯一高活性を示したアセチルイミノピリジン鉄触媒を用いて、種々の条件下でエチレンのオリゴメリゼーションを行った結果、活性化剤(助触媒)として用いるアルキルアルミニウム(メチルアルモキサン、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム)の種類により、触媒の活性化効率および寿命が大きく異なることが見出され、活性化剤の効果に関する有用な情報が得られた。これらの結果を踏まえて、一部予想外の結果が得られているものの、概ね順調に進展していると結論した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度の検討結果より、アセチルイミノピリジン配位子のピリジン環オルト位の置換基効果について検討した結果、フェニル基、ブロモ基、チエニル基およびエチルオキシカルボニル基を導入した配位子系では、中心金属(鉄、コバルト、ニッケル)によらず、いずれも極めて低活性であり、アセチルイミノピリジン鉄触媒のみがエチレンのオリゴメリゼーションに高活性であった。これらの結果から、未だオルト位の置換基の効果については明確な知見が得られておらず、配位子の設計指針が確立されていない。そこで、平成24年度についてもピリジン環オルト位の置換基効果について、立体的、電子的な効果を考慮して、配位子構造と触媒活性、生成物分布の関係について検討を継続する。加えて配位子の立体的、電子的効果をより定量的に考察するために、計算化学的な手法についても検討を開始する予定である。一方、高活性かつ高いα-オレフィン選択性を示したアセチルイミノピリジン鉄系の触媒については、イミノフェニル基上の置換基構造の最適化を実施する予定である。平成23年度の検討では、2,5-ジメチルフェニル、2-メチルフェニル、2-クロロ-5-メチルフェニル基について検討を行ったが、オルト位の置換基を全て外した配位子(3,5-ジメチルフェニル基)等について検討し、より高活性、α-オレフィン選択性の高い触媒の開発を目標に、配位子骨格の最適化を行う。さらに、本触媒系では大幅に改善されているとはいえ、活性種の熱安定性や生成物中のmax成分量の低減など改良すべき点は多く、配位子構造の最適化により、これらの課題についてもさらに改善された触媒の開発を目指す。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究計画が概ね順調であったことから、平成24年度も概ね計画通り研究を進める予定であり、申請時の計画に沿って使用する予定である。本年度の研究計画から分かるように、配位子の合成、触媒調製、エチレンオリゴメリゼーションによる評価が主な研究内容であり、具体的な執行予定としては、予算額800千円に対して、消耗品類700千円(試薬類300千円、実験器具300千円、分析用品100千円)、旅費(石油学会研究発表会、秋田、3日間)100千円として使用する予定である。
|