研究課題/領域番号 |
23560927
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
黒川 秀樹 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50292652)
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キーワード | 錯体固定化触媒 / エチレン重合 / オリゴメリゼーション / 合成フッ素雲母 / オリゴマー / オレフィン / イオン交換 / 粘土鉱物 |
研究概要 |
平成24年度は、主としてi)bis(imino)pyridinecobalt(II or III)系錯体およびii)alfa-diiminenickel(II)系錯体の二種類の錯体を合成フッ素雲母(mica)の層間に固定化した触媒を調製し、エチレンオリゴメリゼーションに対する性能を評価した。 まずi)では、ヘキサアンミンコバルト(III)塩を用いたイオン交換反応によりCo(III)-micaを調製した後、bis(imino)pyridine配位子を接触させることで固定化触媒とした。その調製した触媒を用いてエチレンのオリゴメリゼーションを行った結果、Co(III)-micaより調製した触媒は、Co(II)-micaから調製した触媒に比べて極めて活性が低かった。その原因を調べるために調製した固定化触媒のXRD測定を行ったところ、Co(III)-micaより調製した触媒では、配位子がmica層間にインターカレートしておらず、その結果として層間で錯体が殆ど生成していないために低活性になったものと推定された。 次にii)では、alfa-diimine配位子のフェニル基上にフッ素原子を導入した配位子を合成してmicaの層間にalfa-diiminenickel(II)錯体を固体化した触媒を調製し、エチレンオリゴメリゼーションに対する性能を評価した。その結果、フェニル基上にフッ素原子を導入すると、フッ素原子の数が二つまでは無置換のフェニル基を有する触媒に比べて、活性が大幅に向上することが分かった。この活性の違いは配位子の電子吸引性が向上することにより、ニッケルのカチオン性が増大したためと考えた。一方でフッ素原子を3つ導入すると大幅に触媒活性が低下しており、この結果は電子吸引性が強すぎるとエチレンの配位が強くなりすぎてしまい、ニッケル上のアルキル鎖への挿入が起こりにくくなるためと結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度終了時点での進捗状況としては、研究開始時点において設計した配位子系については、概ね予定通り配位子合成と触媒調製、エチレンオリゴメリゼーションによる評価が終了しており、検討項目の達成度という意味では予定通りである。 次に成果についてみると、これら一連の検討結果では、調製した触媒の多くは予想通りの性能が得られているが、一部の期待した触媒系では予想に反して期待した性能が得られなかった。これは、錯体を層状粘土鉱物の層間に固定化することによって、分光学的な測定によって違いが見られないにもかかわらず、錯体の立体的、電子的構造の僅かな変化によって触媒の活性や選択性が大きく影響を受けてしまうことを暗示していた。このような固定化による触媒性能への効果は、触媒系によっては性能向上に寄与する場合もあり、例えば開始時点では検討予定に入っていなかったacetyliminopyridine配位子を用いて調製した鉄系触媒においては、予想に反して、検討した触媒の中で最も高い活性とα―オレフィンへの選択性が達成された。また、これまでの他者の報告では、大きな効果が期待されなかったフッ素原子を有する配位子系において、触媒性能の大きな改良効果が得られたことは、固定化触媒系での配位子構造の難しさを強く示唆している。したがって、実施状況という観点では予定通りの進捗状況と結論できるが、配位子構造と触媒性能と相関という観点ではまだまだ十分な予測ができていない部分もあるため、全体としては概ね予定通りに進展している、との判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の検討結果より、合成フッ素雲母の層間にalfa-diiminenickel(II)錯体を固定化した触媒において、フェニル基上にフッ素原子を導入するとエチレンオリゴメリゼーションの活性が大幅に向上することを見出した。そこで本研究ではこの成果を発展させて、フッ素原子を導入したacetyliminopyridine、bis(imino)pyridineおよびiminopyridine系配位子を合成して、Fe(III), Co(II), およびNi(II)系の触媒を調製し、その性能評価を実施する予定である。 まず、これまでの検討からエチレンのオリゴメリゼーションにおいて活性が高く、また、α-オレフィンへの選択性が最も高かったacetyliminopyridineiron(III)系触媒について、フッ素原子導入による触媒性能の向上を検討する。また、平行して、同じ配位子を用いてcobalt(II)系触媒についても調製してその性能を評価する。続いて、これら以外の配位子系についても順次合成して評価することで、フッ素原子導入の効果を幅広い配位子系において検証する予定。 さらにフッ素原子導入による活性への効果について、その理論的な考察のためにGaussian09を用いた計算化学的手法による解析を行う。解析では、主として中心金属の電子状態と配位子構造の相関について検討することで、高活性触媒を調製するための配位子の設計指針を構築することを目標とする。 加えて、昨年度大学に導入されたXPSを用いて、調製した触媒の中心金属の電子状態を系統的に調べることで、計算化学的手法による結果と対応させて、より精度の高い触媒設計指針の構築を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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