本研究では、水溶液中の貴金属粒子の作製方法の一つである放射線還元法において、微細化、或いは複成分化した貴金属粒子の生成効率を促進、触媒基材でのエネルギーロスなどの従来課題を解決することを目指して、100 keV以下の電子線照射により形成される局所高密度還元場を利用した貴金属ナノ粒子の生成・固定化を試み、その構造解析や触媒活性の評価から、低エネルギー電子線照射による貴金属ナノ粒子触媒の作製条件を明らかにする。 平成23年度に数十keVの電子線照射により水溶液表面に生成できることを見出し、平成24年度にその形態や化学状態を明らかにした白金ナノ粒子膜について、平成25年度では、その触媒性能の有無を調べた。具体的には、水素原子との反応で青く着色する三酸化タングステン(WO3)基板に、この粒子膜を塗布して1%の水素ガスに曝した結果、WO3基板が青く着色することを確認し、白金ナノ粒子膜が水素分子を水素原子に解離する触媒作用を有することを見出した。 また、平成25年度にアルミナ多孔質基板に試料水溶液を吸収・保持させた後に数十keVの電子線を照射することにより、基板表面に触媒作用を有する黒色部分を形成することに成功した試料について、平成25年度ではその黒色部分の化学状態をX線光電子分光法により調べた結果、白金成分の70%程度が触媒作用を有する金属状であることを明らかにした。さらに、基板表面からの深さ方向の白金存在量を調べた結果、アルミナ多孔基板全体に水溶液を含浸したにもかかわらず、基板表面から数百nmの極表層のみに白金が存在することを見出し、低エネルギー電子線照射による多孔質基板の極表層への貴金属触媒粒子の生成、分散固定化に成功し、さらそれを制御できることを見出し、低エネルギー電子線を用いた新たな触媒作製技術の可能性を大きく拓いた。
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