研究課題/領域番号 |
23560937
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
青柳 将 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノチューブ応用研究センター, 研究員 (50356333)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 自己集合 / ナノチューブ / 配位錯体 / 金属 / 不均一系触媒 / 酸化反応 / 還元反応 |
研究概要 |
グリシルグリシン/ラウリン酸からなるアミド化合物とニッケルイオンが自己集合することによって得られるニッケル錯体タイプ有機ナノチューブ(Ni-ONT)がスチレンの水中、過酸化水素によるエポキシ化への不斉触媒能について高い活性、選択性を示すことを明らかにした。反応は基質と過酸化水素水、本触媒を室温で混合撹拌するだけで進行する。すなわち、有機溶媒や加熱を必要としない。このナノチューブは1層の2分子膜構造で出来ているため、脂質分子に配位している全ての金属イオンが反応液との界面に露出することができ、反応に対して触媒能を発揮し得る。一方、既報の銅錯体タイプ有機ナノチューブは4~5層の2分子膜構造であるため、反応を触媒し得る金属イオンはチューブの内外表面に位置する金属イオンのみと考えられる。また、酸化反応終了後、ろ過により触媒を分離、洗浄したのち、同様の酸化反応を行って、繰り返し耐性を検討したところ、この操作を5回繰り返しても、触媒活性、選択性のいずれも低下しないことが分かった。Ni-ONTはスチレンのみならず、α-ピネンの不飽和結合もエポキシ化反応にも良好な触媒活性を示した。さらに、1級、2級アルコールからアルデヒド、ケトン、フェノール誘導体から対応するキノンへの酸化反応をも触媒する。また、1級アルコールと不飽和結合を併せ持つ桂皮アルコールについてはアルコールを高選択的に酸化して、桂皮アルデヒドを与えた。上記の反応について、触媒の繰り返し使用を行ったところ、5回の繰り返し使用でも触媒活性、選択性が低下しなかった。即ち、Ni-ONTが、汎用性の高い、かつ繰り返して使える触媒であることを示した。一方、Ni-ONTは60℃ではナノチューブが崩壊し、触媒活性も低下することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スチレンからエポキシへの酸化反応についてはニッケル錯体タイプ有機ナノチューブ(Ni-ONT)が、これまでに開発してきた金属錯体タイプ有機ナノチューブを超える性能の触媒能を発揮することを見出した。また銅錯体タイプ有機ナノチューブでは酸化に有機過酸が必要であった一部の基質についてもNi-ONTは有機過酸を用いずに、過酸化水素のみで参加できることを見出し、大きな進捗が見られた。また、他の金属種についても知見が蓄積されつつある。また、金属イオンを還元することが期待できる脂質分子をいくつか合成し、ナノチューブ化を検討している。これらについてはコイル構造など興味深い形状への自己集合が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
まず、同じ金属種で太さの異なる金属錯体タイプ有機ナノチューブ(M-ONT)の作成を試みる。さらに得られたM-ONTをの酸化触媒活性を比較することで、触媒活性の主要要因の解明を目指す。さらに複数種の金属イオンが配位したM-ONTの合成を試み、それらの触媒活性も評価する。金属イオンを還元し得る脂質から自己集合した構造体について、それらの酸化反応における不均一系触媒としての応用を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ナノチューブの元となる脂質は引き続き、必要に応じて分子設計をして合成をおこなう必要があり、予定していた受託合成は行わず、その費用を原料および、反応基質のための試薬代とする。電子顕微鏡による形状観察に必要な経費、および、金属錯体タイプ有機ナノチューブおよび金属ナノチューブの組成決定のため、元素分析、ICP-MS分析の費用を計上する。また、これらの実験に必要な器具代を計上する。さらに上記で得られた成果の発表に関わる費用および、さらなる発展を目指した情報収集にかかる費用を計上する。、
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