研究概要 |
前年度までにグリシルグリシンとパルミチン酸から合成されるペプチド脂質とコバルトイオンが錯形成をして、ナノチューブ構造に自己集合する。このコバルト錯体タイプ有機ナノチューブ(Co-ONT)がスチレンの水中、過酸化水素によるベンズアルデヒドへの酸化反応において高い触媒活性を示すことを見出した。反応はスチレンと過酸化水素水、このCo-ONT触媒を40℃で混合撹拌するだけで進行する。さらに本年は、ベンジルアルコール、1級、2級アルキルアルコール、α,β-不飽和アルコール、フェノール誘導体、アルキルベンゼンといった基質の、対応するアルデヒド、ケトン、キノンへの酸化反応の触媒として機能することを見出した。またこの触媒がスチレンの酸化反応において 室温でも触媒活性を示すことを明らかにした。すなわち、Co-ONT触媒が有機溶媒を必要としない、穏やかな条件で種々の有機物を酸化する触媒であることを示した。 Co-ONTを構成するペプチド脂質とコバルトイオンは理論上2:1のモル比で錯形成し得るが、Co-ONTの組成を分析したところ、2:0.17とコバルトイオンが理論値よりはるかに少量であることが分かった。透過型電子顕微鏡観察から、Ni-ONTが単層二分子膜、Cu-ONTが7~8層二分子膜であるのに対して、Co-ONTは4~5層二分子膜からなっていることが分かった。つまり、Ni-ONTは全て、Cu-ONTは約10%の金属イオンがナノチューブ表面に存在している。Co-ONTは表面に出ている脂質は約15%だが、金属イオンの位置は現時点で確認できていないが、少量のCoイオンが高い活性で反応を触媒していると推測される。
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