研究課題/領域番号 |
23560949
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
中澤 浩二 北九州市立大学, 国際環境工学部, 教授 (00304733)
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キーワード | ES細胞 / 胚様体 / 相互作用 / 細胞分化 / パターニング |
研究概要 |
ES胚様体における微小培養環境の重要性を明らかにするために、マウスES胚様体のパターニング培養を利用し、胚様体培養環境が細胞特性に与える効果を評価した。その方法として、培養基板上に細胞接着面となるゼラチンスポットを規則的に配置し、その周辺部分は細胞非接着分子であるポリエチレングリコールを修飾した培養チップを作製した。今回、ゼラチンスポット間距離、すなわちES胚様体間距離が異なる培養チップを設計・作製し、かつ同一チップ上の外周部および内側に形成されたマウスES胚様体に着目することによって、胚様体間の距離や位置関係が細胞特性に与える効果を評価した。胚様体間距離が1500μmの培養チップでは、外周部と内側に位置する胚様体の増殖性はほぼ同程度であり、かつ胚様体の位置に関係なく中胚葉系および内胚葉系への分化が進行した。これに対し、胚様体間距離が500μmの培養チップでは、チップ内側に位置する胚様体に比べ、外周部の胚様体の増殖性は著しく高く、胚様体間距離による影響が現れた。さらに、チップ内側に位置する胚様体は、外周部の胚様体に比べて未分化状態を維持する傾向と内胚葉系への分化が促進されることを見出した。ここで、チップ内側に位置する胚様体は低酸素マーカーの高発現もみられたことから、胚様体間距離が近づくにつれて酸素低下などの胚様体間相互作用が発生し、このような相互作用が細胞の増殖性や分化特性に影響を与えているものと考えられた。胚様体間の距離や形成位置によって、細胞特性が異なることを見出したことから、今後、この現象を利用して効率的な分化誘導手法への展開を図る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ES胚様体間の距離や形成位置の違いと細胞分化特性の関係を見出すことができた。特に培養チップ条件によってES胚様体の特性が異なることを見出したことは大きな収穫であり、培養環境制御によって細胞特性をある程度制御できる可能性が示された。これらの実施内容は当初の計画通りであり、本研究目的の第2段階をクリアした。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までの研究によって、胚様体のサイズや数、胚様体間の距離や位置関係によってES細胞の増殖性や分化特性が異なることが明らかとなったことから、今後はこれまでの知見を活かして微小培養環境による幹細胞分化特性の制御を試みる。具体的には胚様体のマイクロパターニング培養を利用し、目的に応じた培養チップ条件を設計・作製することによって、胚様体を形成したままでの未分化維持培養の確立および内胚葉(特に肝臓系)への効率的な分化誘導手法の確立を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、チップ作製工程や表面処理操作の改良と培養系のスケールダウンにより、当初予定していた材料・試薬の消費が少なくてすみ、研究費の支出が抑えられた。平成25年度は、これまでの知見をもとに、マイクロパターニング培養を利用して幹細胞の未分化維持や内胚葉への分化誘導を制御する実験系へと展開する予定である。これらの実験には、高額な未分化維持因子および分化誘導剤を多用することから、平成25年度配分研究費と合わせて繰越金も使用する。
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