研究課題/領域番号 |
23560952
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
松岡 正佳 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (10121667)
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キーワード | 光化学系II / シアノバクテリア / 酸素発生 / 遺伝子置換 / 耐熱化 |
研究概要 |
光化学系IID1/D2タンパク質耐熱化のための遺伝子置換を続行した。中温性シアノバクテリア宿主Synechococcus elongatus PCC 7942ではpsbAIとpsbDI遺伝子が通常の生育条件では最も発現量が高いので、これら2つを耐熱性D1/D2の遺伝子ORFで置換した株を構築した。その際、D1タンパク質のC末端側の16アミノ酸はプロテアーゼによるプロセシングで除去されるため、耐熱性D1のC末端プロセシングが中温性宿主内で起こらない可能性も考えられた。そこでC末端側16アミノ酸を除去した耐熱性D1ΔCを発現する組換え体も作成した。昨年度に引き続き、rps12媒介遺伝子置換法を用いて好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus由来のpsbA1およびpsbA1vΔC遺伝子ORFをpsbAI遺伝子座に組込んだ組換え体が得られた。それに続いて、psbD1v遺伝子ORFをpsbDI遺伝子座へ組み込んだ組換え体が得られた。最終的に耐熱性D1/D2を発現可能な二重組換え体が構築できた。現在、psbAIとpsbDIと重複して存在するpsbAII, psbAIII, psbDIIの3遺伝子を欠失させた株を構築中である。 rps12媒介遺伝子置換法の改良としてショ糖を含む培地で致死効果をもつsacB遺伝子の利用について実験を行った。S. elongatus PCC 7942のpsbAI遺伝子座にsacB遺伝子を組み込んだ組換え体を作成したが、この株はショ糖感受性をほとんど示さなかった。PCC 7942株ではショ糖の細胞内への取り込み能が弱いと考えられ、sacB遺伝子の利用は困難であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子組換えシアノバクテリア変異株の構築では、一度の多くの遺伝子置換を行う方法が困難であることは、並行して行った2重薬剤耐性変異株やsacB遺伝子組換えの実験結果より明らかとなった。そこで時間はかかるが確実に遺伝子置換を行うことができるrps12媒介遺伝子置換法を使って段階的に菌株構築を遂行している。現在までに耐熱性D1(またはD1ΔC)/D2を発現する組換え株が得られており、最後の重複する3遺伝子の破壊は3つの薬剤耐性マーカーを用いた1段階遺伝子破壊法で行う予定であるので、短期間に遺伝子組換え株の構築は終了する予定である。そこで最終年度は光化学系II複合体の単離と解析に十分時間を費やすことができると考えられる。 既に光化学系II複合体が1段階のアフィニティークロマトグラフィーで精製できることはCP47-histag株を用いて確認しており、耐熱性D1およびD2タンパク質に特異的な抗体を調整済のため、D1/D2遺伝子組換え体の特徴を細胞生理学的、生化学的に調べる準備が整っている。
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今後の研究の推進方策 |
重複したpsbAII, psbAIII, psbDIIの全遺伝子を欠失させたシアノバクテリア株を構築する。これには3種類の薬剤(カナマイシン、クロラムフェニコル、スペクチノマイシン)耐性遺伝子を挿入する1段階遺伝子破壊法を採用する。作成された各種D1/D2耐熱化株の光独立培養条件下での生育速度、酸素発生比速度を野生株と比較し、遺伝子置換が及ぼす影響を評価する。組換え株からCP47-Histagの付加されたPSII複合体をアフィニティークロマトグラフィーによって精製し、ブルー・ネイティブポリアクリルアミドゲル電気泳動およびウェスタン分析により耐熱性D1/D2タンパク質が発現し、PSIIに組み込まれていることを実証する。これらのD1/D2置換型変異株がPSIIの酸素発生最小複合体の単離に使用できるか調べるため、精製したPSII複合体を好熱性シャペロンの存在下で熱処理し、変性タンパク質とD1/D2ヘテロダイマーが分離できるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度末で若干(12680円)の次年度使用額が生じたが、予算内での研究の遂行には支障がなかった。最終年度の予算は上記実験計画が滞りなく進行するように使用する。
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