研究課題/領域番号 |
23560962
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研究機関 | 西日本工業大学 |
研究代表者 |
鷹尾 良行 西日本工業大学, 工学部, 教授 (60206711)
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キーワード | 推進・エンジン / 航空宇宙工学 / ロケット / 宇宙推進 / イオンエンジン / マイクロ波放電 |
研究概要 |
マイクロ波放電型イオンエンジンは、背景磁場を配した放電室内に推進剤とマイクロ波を導入し、マイクロ波と背景磁場によるECR(電子サイクロトロン共鳴)で推進剤中の電子を加速し、推進剤と電子の衝突電離でプラズマ生成を行う。次に、生成したプラズマを背景磁場で維持しながら、プラズマ中から正イオンを静電グリッドで引出して放出し、推力を発生する。従って、生成プラズマの形状は背景磁場とECR領域の位置により決定され、プラズマと静電グリットとの幾何学的な位置関係は、推進効率に大きく影響を与える。マイクロ波によるプラズマ生成において、プラズマの点火性を向上するためには、マイクロ波放出用アンテナ近傍の強電界領域にECR領域を生成することが有効であるが、高密度プラズマ領域が小さくなるためにイオンエンジンの効率向上には不利である。 本研究では、マイクロ波放電型イオンエンジンの放電室内部の生成プラズマを、背景磁場の配位を動的に変化させることにより、プラズマ点火とイオン引出し時の磁場形状を変化させ、イオンエンジンの高性能化を目標としている。 本年度は、前年度の磁石設置位置の変化による放電室内の磁場形状の計算結果を基に、5cm級のマイクロ波放電型イオンエンジンをベースとして可変磁場型イオンエンジンに可動磁石を取付けるための加工設計を行った。また、エンジン性能と磁場配位の関係を確認するために、3cm級のイオンエンジンに耐熱型のネオジウム磁石(表面磁束密度:0.45T)を設置し、イオン引出し実験を行った。この際に、新型の同軸型DCカッターの開発を行い、DCカッタ-の温度上昇を低減することによって、安定した実験実施が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の放電室内外の磁石位置による背景磁場形状の計算結果を基に、5cm級イオンエンジンをベースとして可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンの加工設計を行った。可変磁場型イオンエンジンのプラズマ生成実験を行う前段階の実験として、3cm級イオンエンジンで磁場配位を変更し、プラズマ引出し実験を行い、可変磁場型イオンエンジンの設計データとした。本実験を遂行するにあたって、実験装置の安定性向上のためにDCカッターの改良が必要となり実験に遅延が生じた。今後、可変磁場型イオンエンジンの実験結果を蓄積し、改善のための調整を行う予定である。 可変磁場型マイクロ波放電型イオンエンジンの磁場配位、および3cm級イオンエンジンの実験結果については、学会で公表した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究成果を基に背景磁場を変化させることが出来るマイクロ波放電型イオンエンジンの研究を以下の方策にて推進する。以下の研究遂行は、主に研究代表者および大学院学生1名と学部学生4名にて実施する。 (1)イオンエンジンの改造: ①イオンエンジン筐体部分をイオン引出し実験を基に、改良して行く。改良は、実験データと磁場配位計算結果を付き合わせることによって、計算のパラメータを変更し、ヨークの最適形状を決定する。その後、磁場形成用のヨーク等を3DCADを用いて再設計し、NCフライス等を用いて加工する。本製作は、本校の技術センターおよび一部外部委託で行う。②可動磁石の駆動装置が真空中で高温となる問題を解決する。駆動装置への常時通電を回避する機構または冷却システム追加などを実施する。本改造は、学生および技術センターで行う。 (2)イオンエンジンの性能試験: 開発中のマイクロ波放電型イオンエンジンを真空容器内に設置し、性能試験を実施する。データはパーソナルコンピュータに取り込み評価を行う。 (3)イオンエンジンの磁場配位変更の自動化: ワンチップマイコン等を用いた制御回路により、磁場配位変更の自動運転を行いプラズマ維持性を担保する。 (4)成果をまとめ国内外の学会で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
イオンエンジン(放電室)の改良は、主に西日本工業大学の技術センターで行う。イオンエンジンのヨーク部が、改良の中心であり、材料にFeを用いる。前年度の研究で、本ヨークの製作に困難をきたした部分があるために、製作の一部を外部委託する予定である。また、イオンエンジンの磁場変更用アクチュエータまたは電磁石の冷却方法を検討し、強化するために改造費が必要である。これらイオンエンジンの作製、実験装置改良は本研究の基本となるので、次年度は60万円を本費用として使用する予定である。マイクロ波導入回路の消耗品として10万円、マイクロコンピュータによる可動磁石機構の制御のために電気電子回路部品20万円を使用する。イオンエンジンのイオン引出し実験の推進材として、23万円を使用する。 旅費については、平成25年度の調査・研究旅費として(5万円×3回)を計上し、研究遂行のために他研究機関での類似研究の調査、研究情報の交換を行う。成果発表旅費としてアメリカ合衆国(ワシントンDC18万円)、トルコ(イスタンブール18万円)、香港(12万円)を予定している。 研究遂行に必要な他の実験機材および実験消耗品等に必要な経費は、校費を使用する。
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