研究課題
本年度は,当初計画通り基礎理論およびできる限り基本原理に忠実な詳細モデルの構築を行った.また数値シミュレーションのための計算コードを開発した.詳細モデルとしては,光物理に忠実な定式化を採用し,宇宙機の3D形状をとり入れた解析モデルを構築し,姿勢計算と光圧による力およびトルクのカップリングした問題を解くツールを開発した.計算ツールは,(1)フライトデータからソーラーセイルに特有の姿勢と光学のカップリングを表すパラメータを推定するツール,(2)探査機の詳細3次元モデルと光学パラメータの可視化ツール,(3)ソーラーセイル膜面の形状を任意次数の基底関数の合成として表現し,その重みパラメータ群をフライトデータへフィッティングするツールの3つから構成される.また,IKAROSの実運用データから,姿勢軌道データを抽出し,本解析に適した形式で整理し,データベースを作成した.上記作業に基づき,典型的ないくつかの期間の運用フライトデータを用いて,本計算ツールの予備評価を行い,フライトデータからソーラーセイルの形状を推定する手法の妥当性を評価した.また,本手法によるIKAROSのソーラーセイル性能(姿勢運動からソーラーセイル形状,平面度,光学特性)の評価を行った.結果としてソーラーセイルと姿勢軌道運動のカップリングを解ける見込みを得ている.本成果は,米国American Astronautical Societyの学会( Space Flight Mechanics Meeting)にて発表した.
2: おおむね順調に進展している
本年度に実施した基礎理論およびできる限り基本原理に忠実な詳細モデルの構築は当初計画通りに進んだ.また数値シミュレーションのための計算コードの開発も,計画通りに実施した.実施した内容は「研究実績の概要」を参照のこと.また,IKAROSの実運用データから,姿勢軌道データを抽出し,本解析に適した形式で整理し,データベースを作成した点も計画通りである.上記2つの作業の整合性を確認するため,IKAROSのフライトデータを用いて計算ツールの評価とツールを用いたIKAROSの性能評価を行った.この作業により,本年度の作業結果の妥当性が検証されたと考えている.本年度の成果を学会発表した点も含めて,計画通りの進展であると考えている.
H24年度は,IKAROSの実データを再現する数値シミュレーションを行う.このプロセスを通して,これまでの一般的なソーラーセイルモデルで明瞭に説明できなかった光圧による姿勢挙動を抽出する.明瞭に説明できない原因は,従来のモデル化が簡略化されすぎたものばかりであり,重要な物理的性質をモデル化の時点で排除してしまっているからと考えられる.この段階は,もっとも創造性が要求される過程であるが,前年度作成した詳細モデルによりひとたびこの挙動を再現した後には,数値的にその現象の詳細をトラックすることで,運動を支配しる物理量を抽出することが可能なはずである.このようにして作成した縮退モデルを,実運用データで再度評価することにより,縮退モデルの妥当性を検証したい.H25年度は,前年度までの研究成果のまとめの時期と位置付ける.特に前年度の縮退モデルの構築は,創造性が最も必要とされる個所であり,計画より時間を要する可能性がある.23年度の詳細モデル構築さえしっかりしていれば,解析に要する時間のみがリスクであるから,当年度前半は,万一研究が首尾よく進んでいない場合には前年度の作業を継続して進める.一方で,この研究で構築されたモデルを用いて,将来の新たな宇宙機ミッションへの応用を検討することで,本研究の成果の拡大を図る.本研究の後半で構築しようとしている縮退モデルは,宇宙機の太陽光圧が影響する主要な動力学パラメータを全て含んだ形式であるべきである.ひとたびそのようなモデルが構築されれば,ソーラーセイルの設計や運用解析,誘導制御解析に供することができ,光圧を積極的に利用する宇宙機の設計論を,幅広く取り扱うことができるものと期待される.これらの成果は,随時,国内・国外の関連学会にて,成果発表を行う.
当初計画通り,以下の項目に使用する計画である.計算用ハードウェア整備40万,消耗品5万,旅費100万(国内学会発表 10万,国際学会発表 90万),その他25万.ただし,計算用ハードウェア整備は,計算作業の外注に替えることも検討する.なお,次年度使用額(5.8万円)の発生については,本年の旅費,物品費,その他経費等の各費目がそれぞれ計画より若干少額で済んだことによるものであり,次年度有効に使用する予定である.
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