研究課題/領域番号 |
23560981
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研究機関 | 独立行政法人水産大学校 |
研究代表者 |
太田 博光 独立行政法人水産大学校, その他部局等, 准教授 (80399641)
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キーワード | 漁船 / 状態監視 / 波形分離 / 超音波振動 / 機関 / 潤滑油 / 音響診断 / パラボラマイクロホン |
研究概要 |
本研究の特長の1つ目は漁船機関損傷の要因として最多である潤滑油性状劣化を機関の摺動部から発生する微少な超音波振動を非接触にて監視することで簡便かつ高精度な状態監視が可能となる手法を提案している.具体的には測定された超音波振動を定量化することで潤滑油の性状と油膜厚さを推定することが可能となる状態監視システムの開発である.特長の2つ目として船舶の機関室内のように狭空間かつ比較的低剛性な環境において複数の機械設備が設置され,振動に関して合成場が形成されるため,少数のセンサによる状態監視では精度が保てない環境下での高精度化を目的としている.特定の方向のみに感度の優れたパラボラマイクロホンをセンサとして用い,遠方に1個設置し,合成波形に対し提案する「波形分離法」を適用することで複数存在する機械設備の中から特定の状態監視対象設備のみから生じた時系列波形を分離することが可能となり高精度な状態監視が可能となる.さらに本年度はピストン-シリンダ型の往復摩擦摺動試験機に供試油として無添加タービンオイルと鉱物油を用い油温30℃~約130℃で試験機壁面に設置したAcoustic Emissionセンサにより超音波振動を測定,定量化を行っている.超音波振動量との検証値として計数汚染度,SOAP法,フェログラフィー法を用いている.研究の結果,発生する超音波振動の発生量は潤滑油の性状劣化と油膜厚さに強い相関がある事が判明している.特に超音波発生量-潤滑油性状-油膜厚さ間の3次元グラフの作成を行っている.波形分離に関しては回転ローター装置3台およびガソリンエンジン 3台を使用し波形分離の有性な条件を検証している.具体的には有効なパラボラマイクと機関間の距離およびパラボラマイクと「機関-機関」間角度の検証を行い有効な条件を確定している.回転ローター装置に関しても同様に有効な条件を確定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は実機エンジンのピストン,シリンダライナ,ピストンリングを使用し作製したピストン-シリンダ型の往復摺動摩擦試験機に供試油として無添加タービンオイルおよび鉱物油を用い油温を30℃~約130℃で試験機壁面に設置したAcoustic Emissionセンサにより超音波振動を測定,定量化を行っている.検証値として計数汚染度,SOAP法,フェログラフィー法を用いている.研究の結果,発生する超音波振動の発生量は潤滑油の性状劣化と油膜厚さに強い相関が現れている.すなわち潤滑油の性状が劣化し,油膜厚さが薄くなる程,ピストン-シリンダライナ間で発生する直接接触が増加し,超音波振動の発生量は顕著に増加している.実験で得られたデータを基に超音波振動の発生量-潤滑油性状-油膜厚さの3次元グラフの作成を行い,超音波振動の発生量を基に潤滑油性状および油膜厚さの推定が可能になっている.本研究成果を基に「レシプロ式機械装置の状態監視システムとその方法とそのプログラム」という名称で特許出願を行っている.波形分離に関しては回転ローター装置3台,4サイクルガソリンエンジン 3台を使用し波形分離に有性な条件を検証している.具体的にはパラボラマイクと機関間距離およびパラボラマイクと「機関-機関」間角度の検証を実験により行い有効な条件を確定している.回転ローター装置に関しても同様に行っている.本研究成果を基に「動的設備の状態監視システムとその方法とそのプログラム」という名称で特許出願を行っている.さらに,回転機械に生じる複数の異常を単一の振動センサのみで高効率に検出する手法として単一入力多重要素ARモデルとその状態監視手法の提案を行っている.その有効性について全歯車摩耗,ロータアンバランス,転がり軸受外輪傷の検出を行ったところ有効性が確認されている.よって本年度は研究成果が計画通りに得られ順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は当 水産大学校の練習船 耕洋丸(排水量2352トン)および小型練習船(排水量15トン)の機関室内の実環境を使用し機関の潤滑油性状の推定,機関に発生するトルクリッチ状態の検出および発電機,コンプレッサ,ポンプなどの機械設備に対して波形分離を適用し船舶機関室に対する状態監視の高精度化を検証し,実用化を図るための乗船実験を行う.今年度は状態監視対象設備と検出する異常状態の種類が異なる場合,例えば機関のトルクリッチ状態と複数の発電機の潤滑油性状の推定,機関のトルクリッチとレシプロコンプレッサの軸受,歯車摩耗など機械要素の損傷に対する高精度検出を行う計画である.実環境での手法の有効性が確認できれば共同研究を実施している株式会社トライボテックスおよび株式会社 日鉄エレックス製の携帯型診断装置に本提案手法の機能を搭載し実用化を行なう予定である. 研究代表者の役割は昨年度までと同様であるが乗船実験を実施するため研究協力者として水産大学校 練習船耕洋丸の機関長に機関室内に設置してある主機関,発電機,レシプロコンプレッサ,ポンプなど機械設備の取扱いを担当して頂くことで了承を得ている.また研究協力者である日鉄エレックスおよび株式会社トライボテックスの共同研究担当者と乗船実験を行い,実用性の検証を行う.データ測定,解析に関しては本年度 在籍している大学院生に研究協力者として依頼する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
水産大学校の練習船 耕洋丸(排水量2352トン)の機関室内および小型練習船(排水量15トン)を利用して主機関,発電機,コンプレッサなどが混在して駆動する実環境にて波形分離に関する技術の実用性を検証する. 主機関,発電機,コンプレッサなどで使用するディーゼルエンジンオイル,燃料油を消耗品費にて購入を予定している.研究協力者との打合せ1回,株式会社日鉄エレックス(下関―東京),国内成果発表2回,海外成果発表1回,乗船実験1回に相当する旅費を計上している.さらに特許出願の以下2案件「動的設備の状態監視システムとその方法とそのプログラム」および「レシプロ式機械装置の状態監視システムとその方法とそのプログラム」の審査請求のための費用も計上している.
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