研究課題/領域番号 |
23560987
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
佐藤 晃 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (40305008)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 廃棄物地下保存・処分 / X線CTスキャナー / CO2 |
研究概要 |
近年,地球温暖化の影響と思われる異常現象が世界中で発生している。その主たる原因として,石油や石炭といった化石燃料の大量消費によって大気中に放出された温室効果ガスの急激な濃度上昇が挙げられる。こうした大規模の排出源からCO2(Carbon-dioxide)を分離(Capture)し,地中の帯水層に貯留(Storage)するCO2地中貯留(CCS)が有望なCO2 削減方法として考えられている。そこで本研究では、非破壊検査法である産業用X線CTスキャナーおよびマイクロフォーカスX線CTの画像データを用いて、多孔質岩石試料内に超臨界CO2の岩石内での圧入・流動ならびに空隙内部へのCO2の残留ガストラップ現象を巨視的なトラップ現象と微小空隙内部でのトラップ状態との関係を可視化・分析を試みた。研究初年度である本年度は,マイクロフォーカスX線CTスキャナーを用いて空隙内部へのCO2の残留ガストラップ現象を可視化・分析する基礎技術の修得を目的として研究を実施した。マイクロフォーカスX線CTは非常に高い空間分解能を有する一方で,可視化の対象である密度の分解能は相対的に低い。そのため,従来の画像間差分法では十分なデータの抽出が不可能である。本研究では,水飽和岩石内部に空気を圧入し,圧入前後でのヒストグラムの差分情報から水-空気の閾値を決定する新たな方法を確立した。これにより,簡単な操作で客観的な閾値の決定が可能となった。さらに,多孔質岩石内部の通気ネットワークの分析が可能となった。その結果,空気の圧入による置換は空隙の約3%程度で起きており,しかも,比較的経大きい空隙を選択的に流れていることが分かった。さらに,同じ空隙中でも全ての空間が置換されるわけでなく,その中心部分のみが置換されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
岩石空隙中でのCO2と水の状態を可視化分析するためには,異なる相が混在する非常に複雑な状態の中での密度情報の正確な抽出が必要不可欠である。特に,先に述べたようにマイクロフォーカスX線CTは高い空間分解能を有する代わりに,産業用X線CTスキャナーに対して相対的に密度分解能は小さい。このため,これまで産業用X線CTスキャナーで実施してきた単純な画像間差分法では,情報の抽出が不可能であることが明らかになった。この,比重差にして0.4程度の水とCO2を分離するためには,これまでのデータ処理方法とは異なる新たなデータ分析手法が必要である。さらに,マイクロフォーカスX線CTのもう一つの利点は,産業用X線CTとは異なり,3次元の空間情報を同時に可視化できる点にあるが,それ故にデータの量は非常に多く,従来のような1断面の画像間のマッチングに比較して作業量は膨大である。本年度は,このような問題を解決し,マイクロフォーカスX線CTの特性を活かす新たなヒストグラム差分法を開発した。この方法は,比重差が小さく,かつ,膨大な量を有するデータを効率的に分析するために必要不可欠であり,今後実施予定の塩水飽和状態でのCO2置換プロセスの可視化・分析のための基礎となる方法である。この方法の確立により,岩石構造と貯留メカニズムの関係を分析できる可能性が非常に高くなり,さらに,得られた結果からCO2圧入後の貯留率ならびに長期にわたる残留飽和率を分析が可能になると考えられる。以上により,本年度の研究は当初の計画を概ね達成しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように,岩石空隙スケール(数マイクロ~十数マイクロメータ)での気相・液層の分離のための基礎技術を確立した。しかし,本研究で対象としているCO2の場合,水との比重差に換算して 0.4程度となる。このような小さい密度差を分析するための新たな手法が必要となる。一方,一般にCCSの対象と考えられているのは塩水で飽和されている帯水層である。塩水の場合,真水に比較して密度が高く,CO2とのコントラストも得やすい。この性質を利用して,本研究ではヨウ化カリウムを基本とした塩水により岩石を飽和させ,この試料に対してCO2の貯留実験を実施する。ヨウ化カリウム水溶液は,本研究者が長年造影剤として用いてきた物質であり,密度以外は基本的に流体としての性質は水と等しいことが分かっており,X線CTでの適用例もきわめて多い。本年度は,この造影剤を利用して液体あるいは超臨界CO2の流動・貯留現象実験を実施し,昨年度確立した技術を用いて分析を実施する。一方,産業用X線CTを用いた巨視的な流動・貯留現象については既に研究者らは詳細な分析を行っており,最大で約30%の空隙で置換が行われるなどの知見を得ている。また,この結果は他の手法により分析された置換量とも調和的である。このようなバックデータを基に,マイクロフォーカスX線CTデータとのカップリングにより,空隙内部でのCO2の占有・残留状態,また空隙スケールでの残留量などの評価を実施する予定である。さらに,これらの知見を基に,岩石空隙構造との関係からより高効率なCO2の貯留方法についても検討を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,実験に必要なベレア砂岩などの岩石試料や,圧力容器および流動システムの整備に研究費を充填した。基本的な構成はほぼ整ったものの,圧力の外に温度を精度良く制御するシステムや,圧力の安定化を図るシステムが今後必要であることが分かっている。そこで,ヒーターや温度センサーをはじめとした機器の購入を主に研究費を使用する予定である。また,より一般席を確保するための,ベレア砂岩以外の岩石使用についても研究を実施する予定である。主に,実際の帯水層を形成している岩種を中心に,岩石試料の購入を予定している。
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