研究課題/領域番号 |
23561012
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
清水 喜久雄 大阪大学, ラジオアイソトープ総合センター, 准教授 (20162696)
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研究分担者 |
飯田 敏行 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60115988)
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キーワード | 米国 / 英国 |
研究概要 |
【研究背景】放射線防護・放射線安全の観点から、個人線量計による被ばく量の管理は重要である。TLD素子やフィルムバッジ等が実用化されているが、これら既存の個人線量計のメカニズムは、熱ルミネッセンス現象やフィルムの感光作用など、物理・化学的作用を応用したものである。一方で、放射線影響の要因は細胞中のDNAの切断や酸化損傷が主である。本研究では、リアルタイムPCR(Real-Time Polymerase Chain Reaction)を用いたDNA鎖切断収量を指標とした吸収線量の評価法について検討した。 【研究方法】出芽酵母S288cのURA3領域(804 bp)をPCR法によって増幅し精製した反応物をDNAサンプルとした。DNAサンプル量は0.1- 1.0 ng/1反応とした。DNAサンプルに対し、 HIMACで炭素イオン粒子(290 MeV, LET:50 keV/μm)を照射した。また対照としてでガンマ線(LET:0.2KeV)を照射した。吸収線量は1.0 Gy-100.0 Gyであった。照射したサンプルDNAを鋳型とし、未損傷の鋳型DNAの量を評価した。 【結果】ガンマ線照射と比較して炭素線照射の場合は増幅率が低下していた。二本鎖切断やAPサイトの生成が数bp以内に複数生じた場合(クラスター損傷)、酵素活性が強く阻害されることが報告されている[。従って本結果は、ガンマ線照射と比較して、炭素線照射では多くの二本鎖切断が数bp以内に生じ、DNAの合成効率を低下させたことを示していると考えられる。今回の結果は、本手法がDNA鎖切断を指標とするリアルタイムPCRを用いた手法が、LETが異なる放射線による影響を評価できる可能性を示すものである。特にクラスター損傷は、放射線による細胞死や突然変異への寄与が大きく[4]、クラスター損傷を評価できる手法の開発は重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炭素線や、ヘリウム線などのイオンビームをDNAに照射してリアルタイムPCR法で損傷量を解析するとガンマ線などの低LET放射線にくらべて損傷量が大きく、その量は概ねLETに対して正比例することが確かめられた。このことは多種、多様な放射線が存在するにおいてDNA損傷量を評価することよる吸収線量評価法が極めて有効であることが示された。また低線量領域でも誤差が少なく、実用化への道も開けている。
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今後の研究の推進方策 |
より高感度で吸収線量を評価するために放射線を照射したDNAをDNA修飾酵素で処理を行う。 低LET放射線はもとより高LET放射線においてもDNA損傷の大部分は1本鎖や2本鎖DNAの切断では無く塩基の損傷が主である。塩基損傷は種類によってはPCR反応の鋳型となるのでリアルタイムPCR法での評価に寄与しない。 そこで、塩基損傷を特異的に認識するDNA修飾酵素を放射線を照射したDNAに作用させ塩基損傷をDNA鎖切断に変換した後にリアルタイムPCR法で評価する。この方法で感度が上昇するだけでなく、LETの違いによるDNA損傷の質の違いも評価できるものと期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の未使用分については主に、放射線を照射する鋳型DNAに放射線感受性の塩基の挿入費用に充てる予定である. ブロモウラシルや、8-oxy-グアニンなどの修飾塩基の鋳型での導入により放射線のDNA損傷効果が増大すると考えられる。 またDNAの塩基損傷を鎖切断に変換する酵素の購入費用に用いる予定である。
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