【研究背景】放射線防護・放射線安全の観点から、個人線量計による被ばく量の管理は重要である。TLD素子やフィルムバッジ等が実用化されているが、これら既存の個人線量計のメカニズムは、熱ルミネッセンス現象やフィルムの感光作用など、物理・化学的作用を応用したものである。一方で、放射線影響の要因は細胞中のDNAの切断や酸化損傷が主である。本研究ではリアルタイムPCRを用いたDNA鎖切断収量を指標とした吸収線量の評価法について検討した。 【研究方法】出芽酵母S288cのURA3領域(804 bp)をPCR法によって増幅し精製した反応物をDNAサンプルとした。DNAサンプル量は0.1 ~ 1.0 ng/1反応とした。DNAサンプルに対し、ガンマ線を照射した。吸収線量は1.0 Gy-10.0 Gyである。照射したサンプルDNAを鋳型とし、リアルタイムPCR解析装置を用い、未損傷の鋳型DNAの量を評価した。リアルタイムPCR法での通常の実験では1種類のプライマー(十数塩基の短いDNA)を用いて特定の領域のDNA領域を合成するが、本研究では1種類のプライマーセットならびに3種類のプライマーセットを用いた。 【結果・考察】PCR法の原理から、鋳型となるDNAに放射線照射による損傷があれば、ポリメラーゼ連鎖反応を阻害すると考えられる。すなわち、鋳型として機能する未損傷のDNA量を評価できると考えられる。ガンマ線の吸収線量の上昇に応じて鋳型として機能する未損傷DNAが減少すること、すなわちDNA損傷が誘発されていることが示された。また、PCRの原理から、同時に複数のプライマーセットを用いることで、複数の領域を増幅することができる。複数のプライマーセットを用いた場合、DNAに生じた損傷を拡大して評価できる。DNA合成を行なう領域を最適化することで、DNA損傷の認識感度の向上が期待できる。
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