研究課題/領域番号 |
23561015
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
大井 隆夫 上智大学, 理工学部, 教授 (90168849)
|
キーワード | リチウム同位体効果 / リチウムイオン二次電池 / マンガン酸リチウム / 周期境界条件法 / 二重収束型質量分析計 |
研究概要 |
リチウムイオン二次電池の充放電を利用するリチウム同位体分離システムの構築に向け,23年度に引き続き,電極反応におけるリチウム同位体効果についての基礎研究を行った。コバルト酸リチウム電極(カソード)からリチウムイオンを含む電解液(エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)の混合溶液に過塩素酸ナトリウム(NaClO4)を溶解させたもの)にリチウムを酸化させながら放出させる実験を行ったところ,ほぼ同位体効果が存在しないという23年度の結果を確認した。しかし,積算電気量が多くなると若干の同位体効果が観測されるようになることから,初期の純粋な拡散から,徐々に平衡の同位体効果に移行する可能性が示唆されるという結果が得られた。 カソード材としてマンガン酸リチウム(LiMn2O4),電解液としてEC/MEC/LiCiO4(或いはLiPF6)を用いた系では若干のLi-6選択性が観測されており,コバルト酸リチウム-EC/MEC/LiCiO4の系と逆の同位体効果であった。このように,電極材・電解液の組み合わせで同位体効果が異なっており,カソードにおける同位体効果を理解するために,さらなるデータの収集が必要である。 理論面での進展としては,PBC法(周期境界条件法)を用いてコバルト酸リチウム結晶の換算分配関数比の計算に成功したことである。Hse1pbe/sto-3gレベルの計算であり,基底関数が低いことに問題があり,そのレベルを上げることが今後の課題である。しかし,結晶の換算分配関数比を計算する方向が見えたという点で,大きな進歩といえる。ちなみに,電解液側の換算分配関数比も同レベルで計算し,同位体効果の大きさ(分離係数)を評価したところ,25 ℃において,1.054という値が得られ,実験からの推定値1.045-1.059とよい一致を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子化学計算において,周期境界条件法を適用して,初めて結晶の換算分配関数比を評価することができた。基底関数のレベルが低く,偶然計算できた可能性もあるが,大きな進歩であると考えている。 マンガン酸リチウム電極を手作りし,実験に供した。電流・電圧特性はコバルト酸リチウムより劣るが,同位体効果を調べるには十分な性能が得られた。 当初の予定には無かったが,昨年度末,本学科にICP-二重収束型質量分析装置が導入されたため,それを用いてのリチウム同位体比精密測定の研究を開始した。今まで行っていた熱イオン化の方法に比べ測定時間の大幅な短縮が可能である。まだ,基礎データの収集段階であり,実試料の測定には至っていないが,相応の進展が得られている。 イオン液体を電解質とする系は,研究に着手することができなかった。EC/MEC系でまだまだ不明な点が多く,こちらを優先させる必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には,研究計画調書記載の計画に沿って,研究を進める。25年度は最終年度となるが,計画終了までに,研究成果を少なくとも2報の学術論文として公表したい(一報は公表済み)。 より具体的には,1) マンガン酸リチウム系の実験を終了させること。2) 当初の研究計画には無かったICPをイオン源とする二重収束型の質量分析計を使用するリチウム同位体比測定に関し,25年度中に測定方法を確立し,実試料の測定に入る。3) PBC法による結晶中での換算分配関数比に関し,他の系での計算を試みる。3)ニッケル酸リチウムの合成を試み,可能であればニッケル酸リチウム電極を試作し,電解を試みる。 イオン液体を電解質とする系は,現在の進捗状況から考えて研究計画年度内の着手は難しいと考える。今後の研究課題としたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
700千円の経費が承認されている。内訳は物品費300千円,旅費200千円,人件費100千円,その他100千円の予算である。しかし,24年度までで,本研究では消耗品費多くかかることがわかったため,他の経費をできるだけ切り詰め,消耗品費にできるだけ多くの予算を当てる様にしたい。
|