平成25年度は,リチウムイオン二次電池の正極におけるリチウム同位体効果の研究を昨年度に引き続き行った。3年間の研究の全体をまとめると以下のように要約される。 コバルト酸リチウム(LiCoO2)からエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(MEC)の混合溶媒電解質へのリチウム放出はLiCoO2 → xLi+ + Li1-xCoO2 + xe- と書くことができる。形式電荷的には,LiCoO2中でのLiの酸化状態は0,電解液中では+1である。この際のリチウム同位体効果が電解質の種類に依存することがわかった。すなわち電解質がLi+を含む場合,大きなリチウム同位体効果が観測されるが(7Liが選択的に電解質に移動する),電解質がLi+を含まない場合はほとんど同位体効果が観測されなかった。これは,Li+が含まれる場合は,同位体交換平衡反応に基づく同位体効果が起こるのに対し,Li+が含まれない場合は,単純な拡散が起こるためと考えられた。 電極材料がマンガン酸リチウム(LiMn2O4)の場合は,6Liが選択的に電解質に移動した。LiCoO2とLiMn2O4における同位体効果の逆転現象は,両者の結晶構造の違いに由来すると考えられる。すなわち,層状構造をとるLiCoO2では,リチウムは結晶構造中で比較的弱く束縛されており,したがって,比較的自由に層内を移動できるのに対し,スピネル構造をとるLiMn2O4中ではリチウムは強く束縛されている。この結晶中での結合の強さの違いが,平衡論的リチウム同位体効果を支配していると考えることができる。 計算化学での最大の成果は,周期境界条件法を用いて,LiCoO2中のリチウムの換算分配関数比を計算できたことである。基底関数がsto-3gで,計算レベルが低く,信頼性のある計算結果を得るには至っていないが,計算方法の方向性を見いだすことができた。
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