核融合プラントの検討で、弾き出し損傷量1000dpa以上の高照射損傷量での耐久性評価が必要とされた。福島での事故以降、軽水炉の使用期間が短くなる傾向は有るが、部材によっては照射損傷が100dpa及び5000appmHe(核変換生成He量)に達する。また、放射性廃棄物処分では、極めて長期間にわたる照射損傷を閉じ込め部材が受け続けるが、この影響の検討例は限られる。このように高損傷領域での材料挙動の把握の必要性は高い。 本研究では、照射損傷速度が高いイオン照射を用い、超高照射損傷領域での構造材料の微細組織変化を評価し、微細組織の形成を介した、巨視的な強度特性変化を予測する損傷機構モデルを構築した(ASTM STP 1457に2報p. 288-及びp. 313-など)。微細組織形成での課題の一つは、カスケード損傷による点欠陥クラスタ導入の影響を含む、転位ループなどの形成の照射量依存性の解明である。これについてクラスタの移動度及びクラスタ間に働く力を考慮するモデルを作り近似度を大幅に改善した。弾き出し損傷に加え、照射中に生じるHe原子などの挙動も重要であり、イオン照射で1at%を越える注入を行い、硬化、脆化などへの影響を評価し、He濃度が1000appm及び10000appmを超える程度から、体心立方系及び面心立方系の鋼でHeによる硬化が開始することを示した。一方、弾き出し損傷のみでは、硬化は数dpaまでで飽和した(照射温度が100℃以下では、0.1dpa以下で飽和傾向)。これらに加えて、多量のHe原子などによる微小領域での脆化の評価装置(極微小試験片の曲げ試験など)を開発した。結果について16th国際核融合材料会議で依頼を受け講演を行い、また福島第一原発の廃炉に関わる機器の残留強度推定(炉心機器では照射損傷の影響がある)の試みにも応用し、成果を国内の学会でも発表しつつある。
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