研究課題/領域番号 |
23561024
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
山下 真一郎 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 大洗研究開発センター 燃料材料試験部 材料試験課, 研究副主幹 (10421786)
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研究分担者 |
坂口 紀史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70344489)
関尾 佳弘 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 大洗研究開発センター 燃料材料試験部 材料試験課, 研究員 (70565689)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ボイド欠乏帯 / 中性子照射 / 電子線照射 / オーステナイト鋼 |
研究概要 |
原子炉炉心材料における特異な各照射誘起現象(ボイドスエリングや照射誘起偏析現象、照射誘起析出等)のより深い理解には、実効点欠陥濃度の定量的評価が不可欠であり、現状、この実効点欠陥濃度に立脚した材料因子(添加合金元素、析出物など)の的確な解析が十分になされていない。本研究で実施する、微細組織に及ぼす材料因子の効果に係る定量的解析では、ボイドスエリング開始時期の遅延(潜伏期間)や照射誘起偏析抑制等のための材料開発設計指針を得ることが期待され、非常に重要性の高い研究である。 本研究では、「照射点欠陥が結晶粒界等で優先的に拡散消滅することによりその濃度が減少し、結晶粒界にはボイド欠乏帯(無形成帯)が形成され、その幅は点欠陥の拡散係数、実効点欠陥濃度、損傷速度の関数で表される」ことを理論的及び実験的に示した研究分担者(北海道大学 坂口紀史)の過去の研究成果を応用し、材料因子が異なる様々な鋼種間に対してボイド欠乏帯幅の測定と実効空格子濃度の導出を行い、鋼種間でそれらを比較した。 当該年度はFe-15Cr-15Niモデル合金に加え、P, Ti, Si, Nb等の添加合金元素や冷間加工を施した実機材PNC316に対して、中性子照射下及び電子線照射下で形成したそれぞれのボイド欠乏帯幅を測定し、実効点欠陥濃度を評価した。これらの結果から、本試験で用いた合金においては、ボイド欠乏帯幅は照射量、初期導入転位密度、照射場よりむしろ添加元素に強く影響を受けることがわかり、添加元素の導入がボイドスエリング抑制に効果的であることを半定量的に導くことに成功した。また、ボイド欠乏帯幅が照射場の影響を受けなかったことについて、その原因は現在も調査継続中であるが、照射研究の分野で長年取り組まれている中性子照射と高エネルギー荷電粒子線照射の照射相関の解明に対して、一つの有用な情報をもたらすものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、当初の計画通りに、オーステナイト系モデル鋼(Fe-15Cr-15Ni)と、P, Ti, Si, Nb等の微量元素を添加した改良鋼(PNC316)の中性子照射材及び電子線照射材について、ボイド欠乏帯幅を実験的に評価し、実効点欠陥濃度への添加元素の効果を評価した。一方、点欠陥拡散の活性化エネルギーの実験的評価については、取得したデータのバラツキ幅が大きいため、再現性確認を兼ねた再試験を次年度以降に行う予定である。また、当該年度から次年度にかけて、SUS316Lベースの微量元素添加鋼(Zr, Hf, V, Ti, Ta, Nb)に関するデータ取得を予定しており、当該年度は超高圧電子顕微鏡での電子線照射の準備作業(試料調整)を実施し、次年度に電子照射試験を行う予定としている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究成果において、Fe-Cr-Ni系オーステナイト鋼では、添加元素の効果が主としてボイド欠乏帯形成に影響を与え、マトリックスの実効空格子濃度が減少することをボイド欠乏帯幅の定量的評価から明らかにすることができた。次年度は、その添加元素のうち、具体的にマトリックス組織の実効空格子濃度の減少、つまりボイドスエリング抑制に効果的な元素の抽出を可能にすることを目指して、SUS316Lベースの微量元素添加鋼(Zr, Hf, V, Ti, Ta, Nb)の電子線照射試験を実施し、ボイド欠乏帯幅の差を比較・評価する。 また、次年度は各種高Ni鋼に対して、ボイドスエリング抑制に効果的であると報告されている高Ni化がボイド欠乏帯幅・実効空格子濃度にどのような影響を及ぼすのかを調べるために、各種高Ni鋼に対して、ボイド欠乏帯幅・実効空格子欠陥濃度を実験的に測定し、本研究でこれまでに取得しているデータと比較・評価する。更に、同一組成のNiベース鋼において析出物がある場合とない場合で同様の評価を行い、ボイド欠乏帯幅・実効空格子濃度に及ぼす析出物の効果を抽出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度で得られた研究成果を広く公開することを目的に国際会議において口頭発表を行うために、出張費として研究費を使用する。また、北海道大学に設置された超高圧電子顕微鏡を用いた電子線照射試験や本研究の進行に係る打合せを実施するための出張費として使用する。 消耗品費として、本研究の各種作業に必要となる物品を購入するために使用する。
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