研究課題/領域番号 |
23561030
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
蜂谷 寛 京都大学, エネルギー科学研究科, 助教 (90314252)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | エネルギー効率化 / 材料加工・処理 |
研究概要 |
マイクロ波の金属酸化物 (酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化チタン、酸化銅、等) への照射によって、金属元素、酸素のいずれか、あるいは両方のプラズマが放出される。この、プラズマの種類による放出速度の差、および反応管内での輸送速度の差を利用すれば、従来の電気炉を用いたプロセスよりも低エネルギー消費・低炭素使用量での、酸化物からの金属回収、不純物を除去し組成を制御した新たな酸化物の生成が可能となると考えられる。しかしながら、マイクロ波照射によるプラズマ生成のメカニズムは未だ明らかになっていない。 本研究では、生成するプラズマを中心とする気相と酸化物試料に対する分光学的手法・材料科学的手法による分析を通じて、上記のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 本年度は、マイクロ波照射装置に付属の小型分光光度計より、発光の時間変化の実時間モニタによる時間分解測定を行った。 現在測定の進行中である酸化亜鉛に加えて、まず、ほぼ同じバンドギャップ値とバンドのオフセットを持つ二酸化チタンを対象とし、改めて時間分解測定を行うことによって、互いに異なるプラズマ放出挙動が、結晶構造の相異のみならず、バンドギャップ内に存在する欠陥構造の違いに起因するという作業仮説のもとに当面の研究を推進し、モデルを構築した。 本申請の主要装置である赤外分光光度計の設置・稼働を行い、照射下における結晶の温度変化過程である格子振動状態の変化の直接的情報を得た。さらに、ギャップ内からギャップ周辺の伝導帯・価電子帯の電子構造を反映する吸収スペクトルの測定を行い、XRD のピーク裾に現れる欠陥構造の材料科学的手法による探究、ギャップ内励起におけるフォトルミネッセンス測定を併せて検討を行うことによって、照射による原子放出を左右することが強く示唆されているバンドギャップ内の欠陥の電子状態の変化を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請の主要装置である赤外分光光度計の設置・稼働を行ったことにより、照射下における結晶の温度変化過程である格子振動状態の変化の直接的情報を得ることが可能となった。本測定は、ラマン分光と相補的な実験手法であるとともに、ギャップ内の吸収スペクトル測定においても紫外可視近赤外分光光度計とともに不可欠であり、さらには照射に伴う金属酸化物絶縁体から低次酸化物の半導体・金属状態への変化を調べるにあたって、伝導度の温度依存性の測定では非常に判定の困難な TiO2 のような場合においても、スペクトル中のプラズマ反射による構造の有無によって、伝導状態の転移が明確な判定が可能になることが期待されるという点でも非常に有用である。 マイクロ波加熱装置(2.45 GHz)に関して、マイクロ波研究グループ(京都大学生存圏研生存圏電波応用分野)との共同研究を行うことができた。上記の加熱装置の改良・導波管の電磁場解析・多波長マイクロ波照射によるさらなる効率化等をめざした研究が継続中であり、それらの研究結果を密に参照し、比較・検討を行っている。 また、マグネトロン(2.45 GHz)のみならず、電波領域での幅広い波長での(コヒーレントな)光と酸化物との相互作用を調べるべく、自由電子レーザー実験設備(京都大学エネルギー理工学研究所)を適宜利用して共同研究を行っており、同装置による電磁波照射下での試料のフォトルミネッセンス・ラマン散乱のスペクトル測定のみならず、照射後の半導体試料の電子状態をより正確に把握するために、光学窓付冷凍機を用いた液体ヘリウム温度程度での低温でのスペクトル測定装置が構築され・利用可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を基にして、プラズマ放出挙動の確認されているほかの金属 (Cu, Fe, ...) 酸化物への展開を図ることによって、金属酸化物の相互間に存するバンドギャップの大小およびバンドのオフセットに対する、プラズマ放出挙動の依存性を明らかにすることを主目的とする。 多様な酸化物への照射を行い、金属または酸素プラズマの放出挙動を探究することは、メカニズム解明の目的のみならず、金属酸化物資源利用への応用を視野に入れた展開を図るためにも、不可欠であると考えられる。 研究遂行の方法・体制としては、主装置における各種スペクトル測定にあわせて、赤外顕微ユニットにおける照射前後での試料表面観察を新たに行うとともに、前年度にひきつづき積極的に共同研究を行うことによって、プラズマ放出によって生ずる反応活性の高い原子状の金属・酸素の利用を企図するためには、照射-加熱装置の改良・最適化とともに、自由電子レーザーのコヒーレントかつ波長調節可能な光源での測定系での測定・微調整を進め,フォトルミネッセンス・ラマン散乱スペクトルの取得を中心とした計測を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究における主装置におけるフーリエ変換赤外分光光度計に対して、同装置の試料室に直接接続・設置の可能な赤外顕微ユニットの導入が進行中であり、照射前後での試料表面の顕微画像における特定部分でのスペクトルを、より高感度に取得するために,顕微ATR測定用の光学部品の導入を計画している。 また、現在投稿中の学術論文の投稿費用及び、研究成果の国内・海外での発表のための費用に使用する計画である。
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