研究課題/領域番号 |
23561032
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
八木田 浩史 日本工業大学, 工学部, 教授 (60222353)
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キーワード | 可処分時間 / 生産性 / 環境効率 / 産業構造変化 |
研究概要 |
日本の製造業に注目して「産業の生産性向上の検討とICT 機器の導入による効率改善、時間を考慮した環境効率の概念の拡張、現代における時間の価値の定量的な考察」の3点について、既存の文献・資料を収集して、整理した。特に今年度は、日本標準産業分類の製造業と情報通信業に該当する化学工業、石油製品・石炭製品製造業、鉄鋼業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、その他の製造業、通信業、情報サービス業、インターネット附随サービス業の代表的な製品・技術に着目して、1.歴史的背景、2.生産・出荷・利用状況、3.経過年数などの項目を調査して、相互に対比可能な形に整理した。 大規模産業に関しては、化学工業におけるエチレンの製造に着目して、生産能力、生産実績、内需、輸出に基づいて産業構造変化を整理した。1958年から1964年までは、生産能力もわずかで限定されていることから黎明期である。1964年から1978年にかけては、工場数と社数が増加していることから競合が参入し事業の規模が拡大した時期である。1978年から1985年にかけては、平均生産能力は上昇しているものの、社数には変化がなく工場数が急激に減少しており大型化と工場の集約が起こった時期である。1985年から2001年にかけては、社数に大きな変動はなく工場数は微増でありながら平均生産能力は徐々に上昇しており、事業の提携が起きた時期である。2001年以降は、平均生産能力、工場数、社数のいずれも横ばいであり、産業構造としては安定した状態に達していることを確認した。 ICT技術に関しては、パソコン、デジタルカメラなどの普及に関して整理すると共に、インターネット付随サービスのSNS(Social Network Service)に着目して、登録者数の推移などの情報を収集・整理した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は「先行研究の調査、製造業の統計データの収集、ICT技術による効率改善の予備検討」を行った。先行研究の調査に関しては、現代における時間の利用の定量的かつ大規模な調査事例として省庁で実施されている国民生活調査、社会生活基本調査などの国民の生活時間についての調査を対象として、長期的な時間の利用法の変化を整理した。 平成24年度は「産業の生産性向上の基礎的な分析、ICT技術による効率改善の基礎的な分析」を行った。産業の生産性向上の基礎分析では、エネルギー供給に影響する事象は、エネルギー需要量に影響する景気の浮揚と、エネルギー価格変動や自然災害のようなエネルギー技術開発の方向性に影響する事象に二分されることを確認した。産業構造の変化を労働時間・労働者数に着目して分析すると共に、各種製造業の生産性を整理し、パートタイマー労働者、技術開発者の比率に基づいて、一人当たりの生産性が高い技術集約型の産業と一人当たりの生産性は必ずしも高くないが産業規模が拡大している労働集約型の産業に分けられることを確認した。ICT技術による効率改善に関しては、タブレットPCの導入による産業の効率改善に着目して、メール処理および出張報告書の作成などをシナリオ分析した。 平成25年度は「産業の生産性向上の総合評価、ICT技術による効率改善の総合評価」を行う計画であった。産業の生産性向上に関しては、大規模な産業に関して産業構造変化の観点から分析を行い、化学工業における生産能力、生産実績に基づいて、その黎明期から安定期までの推移を整理した。 ICT技術による効率改善の総合評価に関しては、パソコン、デジタルカメラといった製品の普及、SNSなどのサービスの普及が、近年、急速に進展していることを確認した。 23年度から25年度までの研究成果の一端は、日本エネルギー学会、日本LCA学会において口頭発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
液晶テレビとLED電球について対比した分析、化学工業におけるエチレン製造に関する分析から、産業構造の変化もスピードアップしている可能性があると考えられるため、技術開発・普及の速度についても研究の中で考慮することを検討する。またICT関連機器、SNSの急速な普及から、インターネットの利用における利便性の観点と、可処分時間のネット利用による浸食といった観点を考慮した展開についても引き続き検討する。 産業技術の発展および発展速度と、生活の利便性の向上といったポジティブな側面と、可処分時間の浸食、浪費といったネガティブな側面について、産業の生産性および可処分時間の関係について検討を更に深度化する。すなわち産業の生産性および可処分時間に関する量的な部分に加えて、産業技術の開発および可処分時間に関する質的な側面に関して研究を展開する必要があると考えている。時間の価値判断の背景にある幸福(ハピネス)についても引き続き検討を継続していくと共に、技術開発と普及の速度についても検討していく。 このように本研究においては、可処分時間を扱うに際して単純な量的な評価だけでは不十分であり、産業構造変化を含めて社会構造変化および生活スタイルの変化についても検討する可能性が想定される。今後の研究に関しては、引き続き幸福(ハピネス)などの質的な関連研究事例についての知見の収集・整理を行うと共に、その中で可能な部分を可処分時間の評価に「量的」な要素として取り込むことを検討していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(繰越金)は、平成25年度において予定していた有識者へのヒアリングを行うことが出来なかったことに起因している。NICE(National Integration of CO2 Emission)モデルへの労働時間を取り込みを含め長期的な産業構造変化を検討するなど、研究の方向性を修正してきている。 物品費に関しては、文献複写の取り寄せ、統計資料類を含む書籍の購入などを行う予定である。旅費に関しては、日本エネルギー学会第23回大会(7月19日(土)~7月20日(日)、九州大学箱崎キャンパス)、日本LCA学会第10回研究発表会(2015年3月9日(月)~3月11日(水)、神戸大学六甲台キャンパス)において学会発表を行う予定である。 また以下の研究項目の実施に際して、文献調査を含む基礎資料の収集および整理を委託調査することも考えている。 産業の生産性向上の総合評価に関しては、日本の製造業の長期的な生産性の向上および近年の産業構造変化について、エネルギー消費と労働時間の観点に基づいて総合的に評価する。ICT技術による効率改善の総合評価に関しては、産業での活用による可処分時間の拡大に加えて、拡大した可処分時間すなわち日常生活における可処分時間の質的・量的な変化についても引き続き検討を行う。
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