研究課題
GFP、mRFP、CFP蛍光タグを種々の細胞内構造の構成タンパクに付与したタンパクをGal4に依存して誘導できるUAS系統を作製、入手した。これらをbam-Gal4系統と交配して得た個体の精母細胞において、核、染色体、微小管、アクチン繊維、核膜、小胞体、ミトコンドリアがそれぞれ蛍光標識されることを確認した。これらの精巣から取り出した精母細胞を減数分裂の開始から、第1分裂、2分裂終了までタイムラプス観察できるようになった。さらに精母細胞を14時間以上ex vivo培養し、それらの細胞が成長期を経て減数分裂に移行できることを確認した。そして細胞骨格が蛍光標識された精母細胞の培養液に、微小管重合阻害剤コルヒチン、アクチン重合阻害剤サイトカラシンDを加えると、当該細胞骨格が脱重合する様子が観察できた。また、メンブレントラフィック阻害剤プレフェルジンA、Exo1を添加して観察すると、COPI小胞の減数分裂期における動態、膜系オルガネラの形成が阻害されることがわかった。COPI小胞は減数分裂における細胞質分裂に重要な働きをすることが明らかになった。次にメンブレントラフィックに関わる1,030個の候補遺伝子のdsRNAをGal4/UASにより精母細胞特異的に発現させた。このときDicer2を同時発現させ、ノックダウン効率を高めた。これらの個体から精母細胞をとりだし、減数分裂における細胞質分裂に異常がないか上記のライブ解析法にて調べた。ノックダウンすると減数分裂に異常が表れた遺伝子については報告した(J. Cell Sci. in press)。メンブレントラフィックが雄減数分裂における細胞質分裂に必須なことが証明された。さらに精母細胞にsiRNAを直接導入することも検討している。このためRFP-Tubulinを発現させるプラスミドDNAを電気穿孔法にて導入するための条件検討をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
ショウジョウバエの雄減数分裂細胞はサイズが大きく、分裂後期以降の解析にも適しているので細胞分裂の遺伝学的研究に繁用されてきた。一方、分裂期を通して連続観察できないという欠点もあった。そこで本研究では、減数分裂にともなう種々の細胞内構造の変化を同時に観察できるマルチカラーイメージング法を確立することを第1の目的とした。その結果、核、染色体、微小管、アクチン繊維、核膜、小胞体、ミトコンドリアさらにCOPIならびにCOPII小胞、ゴルジ体なども蛍光観察できるようになり、当初の予定以上の成果があがった。また、減数分裂をおこなう精母細胞において、効率よく遺伝子ノックダウンができる実験系を構築することを第2の目的においた。生殖系列の細胞では体細胞に比べて効率的なノックダウンができなかったが、Gal4系統の検討、さらにRNAiに必要なDcr2を高発現させることにより効率的なノックダウンができるようになった。第3の目的として、細胞動態に重要なメンブレントラフィックに関わる遺伝子群をノックダウンして、これらが減数分裂に果たす役割を解明することを掲げたが、これについても新たな遺伝子群を多数同定することができた。次に第4の目的であるオルガネラの伝達機構についても解析を進めている。メンブレントラフィック機構は種間で保存されているので、ショウジョウバエの成果をヒト無精子症の原因遺伝子の同定につなげたい。
H23年度に引き続き、精母細胞にてノックダウンをおこなうために、電気穿孔法によるsiRNAの導入も試みる。H23年度にdsRNA発現により細胞質分裂の異常が認められた遺伝子に対して、siRNAを合成して、減数分裂精母細胞に電気穿孔法により導入する。siRNAを精母細胞に作用させるためのex vivoノックダウン系を構築する。ショウジョウバエの雄減数分裂ではミトコンドリアも均等分配される(Ichihara et al., 2007)。H23年度に作製した系統を用いて雄減数分裂細胞においてミトコンドリアと微小管を異なる蛍光タンパクにより標識する。ミトコンドリアが微小管上を分配される様子をタイムラプス観察する。次に微小管モータータンパク8種類、それの関連タンパク8種類の突然変異体ないしは精巣特異的なノックダウン個体から精母細胞を調整して、ミトコンドリア分配に影響を及ぼすものがないか、ライブ観察法により探す。雄減数分裂におけるミトコンドリアの均等分配に必要な因子とその制御機構を明らかにする。ゴルジ体についても同じように雄減数分裂において伝達される過程をタイムラプス法により観察する。さらにゴルジ体分配に関わる細胞骨格、モータータンパク、アダプターについても同定し、その伝達機構についても明らかにする。さらに、雄減数分裂のライブ観察やオルガネラの伝達の様子を、体細胞モデルとして細胞分裂の研究に繁用される幼虫期神経芽細胞においておこなう。神経芽細胞が不等分裂して神経母細胞と神経芽細胞ができる様子を観察する。蛍光タンパクを神経芽細胞特異的に発現誘導させる。これには神経芽細胞特異的に転写因子Gal4を発現させる64B-Gal4系統を用いる。幼虫の中枢神経系からトリプシン処理により細胞を分取し、上記と同じようなノックダウン実験や阻害剤の影響試験もおこなう。
マルチカラーイメージング法により蛍光のかぶりがない鮮明な画像を取得するため、蛍光タンパクデュアルバンドミラーユニット U-DM3-GFP/DsRed 23万円を購入して使用する予定である。タイムラプス実験では温度が高いと野生型でも減数分裂の異常が表れる場合が有る。観察チャンバー内の温度をコントロールするために冷却専用サーモプレート MATS-500RO 49万円を購入して使用する予定である。この他にショウジョウバエ飼育費18万円、抗体・細胞染色試薬21万円、siRNA 合成・生化学試薬24万円、ガラス・プラスチック器具10万円の使用を予定している。
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