研究課題/領域番号 |
23570005
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
井上 敏昭 鳥取大学, 医学部, 准教授 (80305573)
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キーワード | SIRT2 / オートファジー / 紡錘体チェックポイント |
研究概要 |
脱アセチル化酵素SIRT2は紡錘体チェックポイントからの細胞死を誘導する。この機構としてオートファジーを抑制していることが、オートファジー実行因子の共ノックダウンから明らかになった。紡錘体チェックポイントからの細胞死を誘導には活性化された紡錘体チェックポイントを適切なタイミングで終了させ、Pseudo G1期に移行させることが必要であることが分かっているが、紡錘体チェックポイントが活性化されている際にオートファジーが活性化されていると紡錘体チェックポイントを不活性化するタイミングが遅れ、Pseudo G1期への移行も阻害されることがわかった。 オートファジーはミトコンドリアのような巨大構造物を分解の標的とすることから、当初、オートファジーの標的として中心体断片化を候補としていたが、中心体断片化はオートファジーを抑制しても大きな変化は認められず現時点では標的となるかどうか不明である。しかし新たな標的として核分裂の異常形態のひとつである微小核形成が浮上した。それはオートファジー亢進時においては微小核形成が阻害されていたことに基づき。ひとつの可能性として紡錘体チェックポイント活性化されている際のオートファジー亢進は微小核形成を標的としている可能性があると考えている。微小核形成が異常核型を示す細胞の細胞死誘導の引き金であるという報告があり、この仮説とも合う。微小核はM期-Pseudo G1期移行に伴い形成されるが、オートファジー亢進により微小核形成が阻害されることがこの移行を阻害していることを示唆する。更に興味深いことに、SIRT2ノックダウンだけではなく、薬剤処理によりオートファジー活性化を誘導すると全く同じ現象が見られることから、紡錘体チェックポイント活性化時におけるオートファジー抑制の意義は普遍的なものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SIRT2が紡錘体チェックポイントからの細胞死を誘導する機序としてオートファジー関与を明確に提示できた。そして細胞死誘導を微小核形成を、オートファジーによる分解の新たな標的として提示できた。さらにこの現象がSIRT2分子だけでなくオートファジーという現象について敷衍できた点は満足できる。ただし予定より進行が遅れている。これはオートファジーレベル検出に用いた抗体、これは他研究者の論文を見て使用を決定したものであるが、この抗体の検出感度の問題でウエスタンブロットで時間を消費してしまった。結局、オートファジーについて長年研究している研究者からの情報で新たに購入した他のメーカーの抗体で解決した。今後は論文だけではなく、オートファジーに特化した学術集会に参加して、資材や実験系についての最新の情報を入手するようにして遅れを取り戻す。
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今後の研究の推進方策 |
SIRT2は脱アセチル化酵素である。紡錘体チェックポイント活性化の間にSIRT2がオートファジーを抑制する際に、SIRT2がいかなる分子を標的として脱アセチル化を通じた機能制御しているのかについては未知のままである。SIRT2結合分子として自ら単離した分子群、報告のある分子群に着目して、オートファジー抑制-微小核形成-細胞死誘導の経路が実行されているのかを明らかにして行きたい。 この経路は倍数体化―異数体化からの発がんを抑制する経路であると考えている。これまでの知見に基づくと、M期でのオートファジーを活性化することは異数体化からの発がんを促進してしまう可能性がある。一般的にはオートファジーの減弱が発がんにつながることが報告されているが、その異常な活性化もまた発がんに結びつくことになる。この可能性について正常細胞を用いて検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
SIRT2は脱アセチル化酵素の標的分子については、紡錘体チェックポイント活性化の間のアセチル化レベルの差があるものを選び出す。さらにSIRT2ノックダウンでそのレベルが回復するものを選び出し、アセチル化部位に変異を導入した発現コンストラクトを強制発現およびノックダウンし、M期-Pseudo G1期移行、微小核形成、細胞死誘導の変化があるものをその候補分子とする。 オートファジーの異常な活性化と発がんについては、オートファジーを誘導できる薬剤で正常線維芽細胞を長期培養し、がん化のパラメーターである核型、中心体数、足場非依存性増殖で検討する。
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