研究課題/領域番号 |
23570015
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
牧野 渡 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90372309)
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キーワード | 生態化学量論 / ヒゲナガケンミジンコ / ニッチ分割 / 種間競争 |
研究概要 |
本研究は、「生態化学量論Ecological Stoichiometry」を、その有効性が広く認められている「現世現象」あるいは「近未来予測」に対してではなく、これまでに殆ど扱われたことがない「大過去から継続する現象」に対して応用を試みるものである。具体的には、我が国のヒゲナガケンミジンコ類の「更新世以降の棲息ニッチ分割」について、その維持機構に対する「生態化学量論」の相対的重要性を検証する。「生態化学量論」は幅広い生態系にて応用されてきた概念であるが、関連研究の殆どは「現世現象」解析あるいは「現世データからの近未来予測」の観点にたつ。本研究ではこれらの研究とは異なり、「生態化学量論」の「過去一万年の時間スケールで継続してきた現象」に対する説明能力を取り上げた点が特徴的である。なお本研究は「飼育実験」と「野外採集」から構成されるが、「飼育実験」では、異なる炭素:リン比の(すなわち、質的に異なる)植物プランクトンをヒゲナガケンミジンコ類に与え、その個体群成長速度と「ダメージ係数(質の悪い餌を与えた時の成長速度が、質の良い餌での値の何%に減少するか)」を見積ることを目的としている。そして得られた結果から、ヒゲナガケンミジンコ類の競争的優劣関係が「餌の質」の劣化(すなわち炭素:リン比の増加)に伴い逆転するか否かを確認する。平成24年度は、平成23年度に確立した「飼育実験」系を使って、ヒゲナガケンミジンコ類を異なる「質」の餌(珪藻類とクリプト藻類)で飼育・その成長応答を確認し、ダメージ係数を見積もることを継続した。また野外採集で得られたヒゲナガケンミジンコ類の空間分布パターンから「生態化学量論」以外の要因が「棲息ニッチ分割」に関与する可能性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のとおり、本研究の「飼育実験」に関して最も重要なことは、ヒゲナガケンミジンコ類において、質の悪い餌を与えた時の成長速度が、質の良い餌での値の何%に減少するか、すなわち、ダメージ係数を定量することである。この点を初年度で達成し、かつ今年度でも継続できたため、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
東北大学内に構築した飼育系において、餌質(炭素:リン比)と餌量(炭素量)の変化に対する、ヒゲナガケンミジンコ類の発育成長応答に関して、平成24年度に引き続き、実験的に解析する。特にヤマヒゲナガケンミジンコ(Acanthodiaptomus pacificus)とヤマトヒゲナガケンミジンコ(Eodiaptomus japonicus)に関して、両種の空間分布パターンの相違が、餌質を介した生態化学量論の観点から説明できるか否かを検証する。さらに野外での餌質の違いが、両種の分布に影響を与えているかを検討する。これらに加えて、野外採集で得られたヒゲナガケンミジンコ類の空間分布パターンから「生態化学量論」以外の要因が「棲息ニッチ分割」に関与する可能性について、さらに検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東北大学にて飼育しているヒゲナガケンミジンコ類の維持管理に必要な、ガラス器具類などの消耗品と、飼育に際して作成する培地用の試薬類の購入にあてる。また野外調査に際して必要な器具類と消耗品類の購入も行う。これらに加えて、採集に必要な調査旅費、および得られた結果を学会にて発表する際の旅費も必要である。
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