研究課題/領域番号 |
23570016
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
山村 靖夫 茨城大学, 理学部, 教授 (50202388)
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キーワード | 栄養塩制限 / 森林限界 / 火山植生 |
研究概要 |
火山噴出物が堆積する富士山の貧栄養地の森林植生において、植生構造および一次遷移過程とN・P制限の関係を明らかにすることを目的とし、平成24年度(3年計画の第2年度)には以下の計画を実施した。 1.前年度からの継続調査として、標高1000mにある溶岩流上のアカマツ林で、亜高木層に優占する常緑広葉樹ソヨゴと落葉広葉樹ミズナラのシュート(葉を含む先端の枝)と落葉、土壌を定期的に採取し、窒素とリン量を分析した。これらの値の季節変化からシュートレベルでの年間の栄養塩経済を解析し以下の結果を得た。(1) 調査地の土壌は同じ気候帯の森林土壌にくらべて乾燥しやすく、利用可能なN、P濃度が低かった。(2) 栄養塩回収率は両元素ともにミズナラよりソヨゴの方が高かった。シュート内の栄養塩損失率はソヨゴの方が低かった。これよりソヨゴの方がミズナラより保存的経済を有していることが明確になり、貧栄養地での常緑性の有利性が示された。(3) NとPの比較では、両種ともにPの方が回収率は高く、損失率は低かった。これよりNよりPの方がより制限的であることが示唆された。葉のN:P比は、いずれの種でも有意な偏りが検出されなかった。 2.一次遷移過程と栄養塩の関係を明らかにするための基礎情報を得るため、最近の噴火の影響をより強く受けている南側斜面で、空中写真の識別判定とGPSを用いた植生分布調査によって植生動態を解析した。その結果、北斜面と同様に、森林限界の主要樹種であるカラマツやダケカンバの分布は地形要因と密接な関係が認められ、ダケカンバ林は谷地形で発達すること、森林限界の上昇速度は南側でより高いことが明らかになった。また、NとPの制限について北側斜面と比較するため、土壌とカラマツとダケカンバの生葉および落葉を採取し栄養塩量を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年の大震災による研究開始の遅れがあったが、研究目的のステップの一つ「溶岩流上の森林の常緑広葉樹と落葉広葉樹で二つの指数を比較し、常緑広葉樹の優占と栄養塩制限の関係を解析する」については完了できた。ただし、論文による発表がまだ準備途上にある。もう一つのステップ「異なる年代のスコリア上に成立した森林限界植生の間で、主要種の種内・種間で二つの指数を比較し栄養塩制限様式を解析する」では、環境調査と試料の分析が残されており、これを実行することにより、研究目的を全体として達成できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の中でまだ終了していない項目の継続を含めて、以下の項目を確実に実施し、研究目的の達成をめざす。 1.溶岩流上の森林での常緑・落葉広葉樹の栄養塩制限についての研究成果を、国際会議(国際植生学会、6月、エストニア)で発表し国際誌に論文を発表する。 2.森林限界植生の上部域のスコリア荒原上の植生分布様式を調査し、パイオニアの高木種(カラマツ,ダケカンバ)の定着におけるナース植物効果を明らかにする。 3.年代の異なるスコリア上に成立した森林限界植生間で、土壌と優占樹種(カラマツとダケカンバ)の栄養塩濃度を比較し、栄養塩制限の様式を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請時の計画通り、(1) 野外調査と研究発表のための国内旅費、(2) 国際会議(国際植生学会、6月、エストニア)での研究発表のための外国旅費、(3) 野外調査と分析実験・データ入力のための謝金、(4) 野外調査および栄養塩分析実験にかかわる器具や薬品などの消耗品のために使用する。
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