研究課題/領域番号 |
23570019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴尾 晴信 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (90401207)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ハクウンボクハナフシアブラムシ / 社会性アブラムシ / 兵隊階級 / 齢分業 / 社会システム |
研究概要 |
社会性アブラムシは、繁殖に専念する生殖階級と利他的な社会行動をおこなう兵隊階級の2つの階級から構成される社会性昆虫である。兵隊は若いうちは掃除をおこない、年を取るともっぱら攻撃に専念するという齢分業を示す。本研究は、社会性アブラムシをモデル系として、社会性昆虫類のコロニーにおける協調と制御の仕組みを包括的に解明し、社会性獲得の進化過程を明らかにすることを目的とする。本年度は、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性に着目した。兵隊の日齢に沿った掃除から攻撃への仕事転換のタイミングは、排泄物や天敵の存在など、巣内外の環境条件に応じて可塑的に変化しうることが確認できた。野外のゴールから老齢の外勤兵隊を人工的に取り除くことで若い外勤兵隊を誘導することに成功した。また、ゴールからすべての外勤兵隊を取り除いた後、ゴール全体に袋をかぶせることで外敵の侵入と兵隊の外勤化を阻止するとともに排泄物のゴール外への排出を継続的に妨害することで老齢の内勤兵隊を誘導することにも成功した。すなわち、通常の老齢の外勤兵隊、人工的に誘導した若い外勤兵隊、通常の若い内勤兵隊、人工的に誘導した老齢の内勤兵隊といった4タイプの兵隊を人工的に誘導するテクニックを開発した。本種の兵隊は齢分業をおこなうが、これは兵隊の仕事刺激に対する行動反応閾値が加齢とともに変化する「生理的プログラム」によるものであり、彼らの社会的な経験が行動反応閾値を変化させて齢分業に可塑性をもたらすものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究のスタートラインともいえる、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性を確認できたことが大きかった。また、野外のゴールを人為的に操作することで、(1)通常の老齢の外勤兵隊、(2)人工的に誘導した若い外勤兵隊、(3)通常の若い内勤兵隊、(4)人工的に誘導した老齢の内勤兵隊、といった4タイプの兵隊を誘導するテクニックを開発することに成功したことで、今後の遺伝子発現解析に向けて大きく前進することができると期待されるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、兵隊の日齢と経験に基づく分業の可塑性をふまえたうえで、(1)化学シグナルに対する末梢の感覚機能の変化、(2)社会行動を統御する中枢の脳内機構、(3)脳機能の分子機構の3つのステップの解析を総合的におこなうことで、集団から個体、行動から脳・神経系、さらには分子レベルに至るまで、包括的に理解することをめざすつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、本研究のスタートラインともいえる、さまざまな日齢と経験の兵隊を誘導するテクニックの開発に力を注いだため、比較的少額の研究費しか使わなかったが、今年度から本格的な神経生理・分子生物学的実験をおこなうため、材料のサンプリングに関わる旅費と実験に関わる物品費の割合が高くなる予定である。
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