研究課題/領域番号 |
23570022
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
服部 昭尚 滋賀大学, 教育学部, 教授 (90273391)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生息地保全 / サンゴ礁 / 種数面積関係 / メタ群集 / 種間縄張り / 種密度 / 景観構造 |
研究概要 |
石垣島白保サンゴ礁に散在する84個のパッチリーフにおけるスズメダイ科魚類全種のメタ群集についての前回の基盤研究によって、種数面積関係にリーフ高を加えると、生息種数の予測精度を向上させられることが示唆された。しかし、空間を占拠する競争最優位種(縄張り制藻類食魚)3種の中の1種だけが統計的には生息種数に負の影響を与えているにすぎず、また他種とは立体的に棲み分けているようであり、なぜリーフ高×面積から生息種数が予測できるのか明らかではなかった。今回、種数体積関係を再調査して確かめた上で、競争優位種の種間行動等を立体的リーフにて観察した。 局所群集内での種間相互作用や局所群集間での移動を把握するために、競争優位種(縄張り制)5種、すなわち、クロソラスズメダイ、ハナナガスズメダイ、スズメダイモドキ、ハマクマノミ、カクレクマノミを対象に、標識等によって個体を識別し、15分間の行動観察を繰り返し、さらに3ヶ月間の移動個体を調査した。スズメダイモドキのみが15分間に隣接パッチに移動するが他種は基本的に移動せず、3ヶ月間の調査では5種ともに希にしか移動しなかった。このうち移動が希なカクレクマノミ1種に注目し、イソギンチャクを生息地パッチと見なしたメタ個体群について、その面積と個体数、体長との関係を解析した。その結果、大パッチほど総個体数や総体長は大きいが、劣位個体は成長を犠牲にすることにより優位個体と共存し、大パッチでは種内競争が大きいことがわかった。この成果はBehavioral Ecology誌に受理された。 この成果をメタ群集に適用したところ、興味深いことに、大パッチでは総個体数や総生息種類数は多いが、大パッチでは優位種の空間占拠により生息種数に負の影響を与えるため、種密度が低くなること、高さのあるパッチでは立体的棲み分けにより、優位種の負の影響が緩和されることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前回の基盤研究により、リーフ面積だけを利用した生息種数の予測は精度が低く、面積×高さ(体積)に注目すると精度が向上することが示唆された。しかし、空間を占拠する競争優位種(縄張り制藻類食魚)3種中の1種だけが統計解析において生息種数に負の影響を示し、この種は他種と立体的に棲み分けているようであり、なぜ体積を用いると予測精度が増すのかはわからなかった。今回の基盤研究では、メタ群集理論、特に競争と分散の種間トレードオフに注目し、大リーフでの種間競争の実態から種数体積関係を規定する仕組みを明らかにし、サンゴ礁魚類保全のための生息地パッチ群の評価方法を確立することを目的とする。 まず、体積を用いた回帰関数を再調査・確認した上で、大リーフでの競争優位種の行動を観察した。大リーフでは、リーフ高が大きいと競争優位種が立体的に棲み分け、種間と種内で相互作用の頻度は同程度であるが、リーフ高が小さいと、種内よりも種間相互作用の頻度の方が有意に大きいことが明らかになった。一般に、リーフ底面積が増すとリーフ高も増すが、遠浅である礁池内では、底面積とリーフ体積の関係は立方体のような3/2乗には比例しなかった。詳細スケールでは長期的に魚類のリーフ間移動に障壁は少なく、競争劣位種が小リーフへ移動するために種密度が大リーフで小さくなり、小リーフでは大きくなるのであろう。リーフ高のある大リーフでは、競争優位種が立体的に棲み分け、底面積当たりの種密度が大ききなる。底面積とリーフ体積の関係が直線的であっため、体積からの生息種の予測可能性が増すものと考えられた。 以上のように、リーフの体積のデータから生息地パッチ群を評価できる見通しは立ったが、統計的な検証にはまだ十分なデータがそろってはいない。平成23年8月に台風により調査を中断したため、再度調査を実施する必要がある。競争劣位種の行動はまだ調査していない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成23年度に台風によって中断した競争優位種の行動データを再度取得するために、石垣島白保サンゴ礁において4月末より1週間程度、競争優位種の行動観察を実施し、統計的に十分な解析が行えるように、十分なサンプルサイズを確保したい。また、8月上旬に、コンピュータ支援作図ソフトウェア-を用いて立体的棲み分け図を明示できるよう、調査を行う予定である。これと並行し、リーフ間の移動個体の有無について、特に競争劣位種が分散優位種になっているのかどうか、個体識別追跡調査によって確かめたい。 また、平成23年度までのデータを中心に、さらに今年度5月初頭のデータを盛り込んで、リーフサイズが生息種数に及ぼす影響について、7月の国際サンゴ礁シンポジウム(ICRS 2012: 豪州ケアンズ)にて研究発表を行う予定であり、この際にこの問題について海外の研究者と議論を深めたい。さらに、9月の国内での日本魚類学会において、今年度の5月初頭と8月初頭のデータを盛り込み、大リーフの形状の違いによって競争優位種の種間行動にどのように差が生じるのかに関する研究発表を行う予定である。 今年度前半までのデータを論文としてまとめ、Coral Reefs 等の国際誌に投稿する予定であるが、その前に、昨年度に購入した統計ソフト(Statistica)の一般線形モデル等を十分に使いこなせるよう、最新の統計学的知識を吸収し、国際誌に通用するデータ解析を行う。また、英文原稿に十分な英文校閲を適用し、国際誌に掲載されるように論文原稿を洗練させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に台風によって中断した調査を再度実施するため、石垣島白保サンゴ礁において4月末より1週間程度の野外調査を行う。同時に、リーフ間の移動個体の有無について、特に競争劣位種に注目して個体識別を実施し、8月上旬にも調査を行うことによって確かめる予定である。これらの調査のために、15万円程度の旅費が2回分(30万円程度)必要となる。また、8月上旬のデータを用いて、コンピュータ支援作図ソフトウェア-を用いて立体的棲み分け図を明示できるようにするため、ソフトウエア-の購入に25万円程度必要である。 7月の国際サンゴ礁シンポジウム(ICRS 2012: 豪州ケアンズ)にて研究発表を行う予定であり(既に申し込み済み)、この海外出張には、参加費を含め、35万円程度が必要である。9月の日本魚類学会においても、研究発表を行う予定であり、この国内出張(山口県)には6万円程度の旅費を必要とする。 平成24年度前半までのデータをまとめ、国際誌に学術論文として投稿する予定であるが、その前に、昨年度購入した統計ソフト(Statistica)の一般線形モデル等を十分に使いこなせるよう、また、平成24年度の野外調査時の種の同定やメタ群集、群集生態学やデータ解析に関する知識を吸収するため、書籍代として4万円程度が必要である。国際誌に掲載されるように論文原稿を洗練させるためには、平成23年度と同様に、十分な英文校閲が必要であり、10万円程度の予算を考えている。
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