研究課題/領域番号 |
23570022
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
服部 昭尚 滋賀大学, 教育学部, 教授 (90273391)
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キーワード | 生息地保全 / サンゴ礁 / 種数面積関係 / メタ群集 / 種間縄張り / 種密度 / 景観構造 |
研究概要 |
84リーフに生息するスズメダイ科魚類のメタ群集について、平成23年度までに種数面積関係にリーフ高を加えると生息種数の予測精度は上ることがわかった。しかし、その理由は不明瞭であった。平成24年度には、高い大リーフを斜め上より水中で撮影し、その画像を観察板として、競争優位3種(クロソラスズメダイ、ハナナガスズメダイ、スズメダイモドキ)の行動(空間配置と攻撃頻度)を繰り返し観察し、統計的に十分なデータを取得した。行動圏のオーバーレイによって立体的棲み分けを明示できた。低い大リーフでは、競争優位3種は共存できるものの種間攻撃頻度が高く、摂餌頻度が低下することも明確にできた。大リーフでは、生息種数は多いが競争優位種の空間占拠による負の影響が大きく種密度は低下した。高い大リーフでは、立体的棲み分けにより競争の影響が緩和された。以上の結果をJournal of the Marine Bilogical Association of the United Kingdom(JMBA)に投稿し、一部修正後に受理の見通しとなっている。 これと並行し、競争劣位種が分散優位種なのかどうか、ミナミイソスズメダイを中心に個体識別法によってリーフ間移動パターンを調査したが、実際には移動が見られなかった。立体的棲み分けの成果について、24年度7月の国際サンゴ礁シンポジウム(ICRS 2012: 豪州ケアンズ)にて研究発表を行う際、Princeton 大学のPinsky博士により「仔稚魚期の分散種が競争劣位種なのではないか」と指摘され、また、博士のご厚意により、サンプルがあればDNAを用いた個体群の分散/定住比を解析してくれることになった。そこで、リーフ間での成魚の移動が希な競争劣位種について、北限個体群(愛媛県南部)で採集を行い、石垣島等の亜熱帯に適応した個体がどの程度混入しているのか現在確認中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度までに、なぜ種数面積関係にリーフ高のデータを加えると生息種数の予測精度が上がるのかについて明確に説明できるようになった。このデータ解析には、平成23年度に購入したパソコンや統計ソフトを利用し、また、データの収集・整理・解析には、平成24年度に購入した図鑑類や統計学、海洋生物学等の専門書を活用した。競争優位種の立体的棲み分けについて、平成24年に豪州ケアンズでの国際学会(ICRS 2012)と水産大学校での日本魚類学会で報告した。その報告内容を国際誌(JMBA)に投稿した。原稿は英文校閲の後、投稿・修正・再投稿を経て、現在、一部修正後に受理の見通しとなっている。 しかし、競争劣位種が分散優位種となっているのかどうかについては、実際に野外で調べた結果、むしろ「リーフ間移動を個体毎に識別して2~3年追跡するだけでは明らかにできないのではないか」ということがわかってきた。実際には近距離のリーフ間で移動しない種類が幼生期に大きく移動する場合があり、ICRS 2012における議論の結果、Princeton 大学のPinsky博士のご厚意により、競争劣位種の北限個体群を対象に、現在この点を分析・確認中である。したがって、大リーフで低い場合に種密度が低下する理由は「競争劣位種の浮遊幼生稚魚が大リーフへの定着を避けるため」であると言う別の仮説を得ることができた。 しかしながら、本研究の目的は、メタ群集理論、特に競争と分散の種間トレードオフに注目しながら、大リーフでの種間競争の実態から種数体積関係を規定する仕組みを明らかにし、サンゴ礁魚類保全のための生息地パッチ群の評価方法を確立することである。したがって、「航空写真画像の解析により、潜在的に生息種数が多くなるような場所を明らかにする手法の確立」については、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
低い大リーフでは、高い大リーフと比べ、種間競争が厳しくなり、種数面積関係から予測されるよりも生息種数が少なくなる。言い換えれば、大リーフでは、高さの減少に伴って生息種密度が低下する。この理由については、平成23年度までは、「競争優位種との種間関係により、競争劣位種が小パッチリーフに移動するため」であろうと考えてきた。しかし、平成24年度の観察にもとづき、そうではなく、「競争劣位種の浮遊幼生稚魚が大リーフへの定着を避けるため」である可能性がクローズアップされた。したがって、今年度は、競争劣位種の新規定着に注目し、大リーフと小リーフでの定着率の違いを明らかにする。このために、これまでの研究の結果、浮遊幼生稚魚の新規定着が多いと考えられる6月下旬から10月中旬にかけて、石垣島白保サンゴ礁において、1週間程度の野外調査を2回程度実施したい。これまで利用してきたパッチリーフの景観マップを活用し、競争優位種と競争劣位種の特定の8種程度について、定着個体数と定着場所をリーフごとに種類ごとに記載する。同時に、先住者との間の種間相互作用の頻度などの行動データも取得する。各リーフの地図上に、それぞれの種の定着個体の位置をコンピュータ上でのオーバーレイによって整理し、空間データとして解析するため、地理情報システム(ArcGIS)を導入する予定である。すでに古いバージョンのArcGISは導入済であるが、平成23年度に導入した画像解析用64ビットパソコンに合わせた新しいものを導入したい。 平成24年度までに明らかになった競争劣位種の行動パターンや平成25年度の新規定着個体の定着所について、10月の日本魚類学会または平成25年3月の生態学会で報告し、その後の議論を含め、成果を国際誌に投稿する予定である。英文原稿に十分な英文校閲を適用し、国際誌に掲載されるように論文原稿を洗練させたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
競争劣位種ではないかと考えられるルリスズメダイ、ミスジリュウキュウスズメダイ、デバスズメダイ、ネッタイスズメダイ、ニセネッタイスズメダイ、ミナミイソスズメダイ、ロクセンスズメダイ等の浮遊幼生稚魚期からのリーフへの新規定着個体に注目し、大リーフと小リーフでの定着率の違いを明らかにする。また、同時に競争優位3種の新規定着個体も記録する。このため、6月下旬から1週間程度、さらに8月下旬か9月上旬頃にも1週間程度、これまで研究を継続している石垣島白保サンゴ礁において、野外調査を実施したい。これらの調査のために、14万円程度の旅費が2回分(28万円)必要である。調査道具等はこれまでと同じものを利用する。また、それぞれの種の定着個体の位置関係をコンピュータ上で重ね合わせて解析するために、新しいバージョンの地理情報システム(ArcGISディスクトップ版と同ソフトの追加版Spatial Analyst、計13万円程度)を新たに導入する予定である。なお、このシステムの導入には23年度購入した64ビットのコンピュータを利用する。統計解析や画像解析についてはこれまでに購入したソフトウェアを利用する。 24年度までに明らかになった競争劣位種の個体識別個体による行動パターンや25年度の新規定着個体の定着場所とリーフサイズ等の関係について、成果をまとめ、10月初旬の日本魚類学会(宮崎市)、または3月中旬の日本生態学会(広島市)において発表する予定である。このため、10万円程度の旅費が必要となる。学会発表の前後に、この成果をMarine Biology等の国際誌に投稿したい。英文原稿を洗練させるための英文校閲費として9万円程度を予定している。
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