次年度までの調査により、それまでの研究によって判明していた「大リーフでは種数面積関係から予測されるよりも生息種数が少ない」ことについて、その理由を明らかにすることができた。すなわち、大リーフでは藻類食魚の種間競争が激しく、背の高いリーフでは競争劣位種はリーフ側面を利用して競争を回避できるものの、平坦なリーフでは共存ができない。サンゴ礁の礁池では水深が浅いため、大リーフは相対的に平坦なリーフとなり、結果的に面積から予測されるよりも生息種数が少なくなる。この成果を平成25年度、Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom誌に公表した。しかし、最終年度に行った競争劣位種の個体識別追跡調査により、当初の「競争劣位種はリーフ間の移動によって競争を回避するため中小リーフの存在は総生息種数を高める」という仮説は、競争劣位種が基本的にリーフ間を移動しなかったので支持されなかった。しかし、個体数の多い種の中に、生息リーフ数が非常に少ない種と多い種が存在し、前者は競争優位種、後者が分散優位種として認識できることがわかった。この特徴により、これまで注目されてこなかった種間競争が浮き彫りになった。例えば、デバスズメダイとクラカオスズメダイは共にサンゴ礁に分布し、エダサンゴに共存もするが、本研究から、デバスズメダイは競争優位種(分散劣位種)で最適な生息場所に大群を形成するが、クラカオスズメダイは分散優位種(競争劣位種)でデバスズメダイとの競争を回避して最適ではない場所に幅広く生息する。競争劣位種にとっては定着時のリーフ選択が定着後のリーフ間移動よりも重要であると推察された。このようにメタ群集の理論『競争と分散の種間トレードオフ』から予測される一般的傾向がサンゴ礁魚類に適用でき、種数面積関係の特徴を説明できた。この点に関して成果をまとめ、国際誌に投稿予定である。
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