研究課題/領域番号 |
23570023
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山内 淳 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40270904)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 進化 / 防衛 / 協力 |
研究概要 |
当該年度は、植物の防衛の進化についての解析を進めるための第一段階として、防衛に関する進化ダイナミクスの一般的な定式化を行った。植物は、基本増殖率についてxだけのコストを払うことで、f(x)の防衛を実現し植食者からのダメージを低減することができる。防衛に関する個体間の相互作用を導入するため、植物個体が受けるダメージは周辺個体の防衛によっても抑制されると考えた。これはassociational resistanceとして知られている現象である。周辺個体が複数存在している場合、それらの防衛の効果の重ね合わせにはいくつかのパターンがありえる。それらは、各々の防衛関数の積f(x)f(x)f(x)、各々の防衛関数の和f(x)+f(x)+f(x)、防衛への投資の和の関数f(x+x+x)などである。こられの一般的な関数にもとづいて、現時点までに、防衛の進化に関する一般的な性質を明らかにすることに成功しつつある。 また、特に周辺個体の効果が相乗的な場合について、f(x)が指数関数で表現される状況に注目して、解析的なアプローチとシミュレーションを組み合わせて進化ダイナミクスを詳細に調べた。その結果、植食圧が中間的な状況で集団内に防衛レベルの二型が生じることが分かった。その際、防衛レベルの低い方の系統では、防衛レベルが必ずゼロになることも示された。また、防衛レベルに多型が生じたとしてもそれは二型までであり、三型や四型といったより高いレベルの多型は生じないことが明らかになった。 これらの一連の成果は、植物の防衛といった個別の状況だけでなく、協力ゲームにおける協力レベルの進化などのより一般的な問題にも適用可能な知見である。これら成果は、複数の学会において発表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、申請書で提案した計画に沿って順調に進展している。本研究によって得られた知見は、複数の学会やシンポジウムで着実に公開されつつある。一連の成果の中でも特筆すべきものは、他個体の防衛(協力)効果の重ね合わせに関する複数のパターンのそれぞれに関して、進化ダイナミクスの一般的な法則性を解明しつつあることである。 初年度のこれらの成果は、今後の研究の進展にも繋がるものである。第2年度以降には、まず上記の進化ダイナミクスの一般的な法則性を中心に据えた論文を執筆する。また、国際学会や国際シンポジウムへの参加なども計画しており、成果の公開も順調に進む予定である。研究の方向としては、現在までの成果に基づきながら、防衛および協力の進化過程における様々な要因の影響をさらに深く解析する計画である。これまでの成果はその取り組みに向けて、重要な基礎的知見を提供するとともに解析の方向性に示唆を与えるものである。 こうした点から、研究計画全体の遂行に向けて順調に成果があがりつつあると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の取り組みとして、まず現在までに明らかにされた成果について、論文として取りまとめることを目標とする。特に、他個体から受ける効果の重ね合わせに関する様々なパターンに対して、進化ダイナミクスの一般的な法則性を明らかにしつつあることは大きな成果であり、この結果を整理して論文に取りまとめてゆく。 また、防衛の効果(あるいは協力の効果)に特定の関数形を与えた場合に関して、より詳細な解析を進めてゆく。個体間の相互作用に関わる形質の進化は、空間構造や個体の繁殖様式など様々な要因の影響を受ける。そうした多様な要因による影響を、コンピュータシミュレーションを用いた解析によって明らかにしてゆく予定である。その解析に際しては、最も単純な場合には防衛(協力)形質の分布は単型か二型にしかならないという現時点までの知見を踏まえつつ、そこに付加的に導入される様々な要因が単型から二型になるための条件やより高いレベルの多型の出現の可能性に与える影響を解明する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
第2年度は、海外の国際研究集会や国際学会などに積極的に参加することで研究成果の公表を促進するために、研究費の多くの部分を旅費に充てる予定である。現時点では台湾への渡航(国立台湾大学の研究者との情報交換)、大韓民国への渡航(数理生物学に関する日中韓の共同研究集会への参加)、アメリカ合衆国への渡航(アメリカ数理生物学会への参加)などを計画している。 また、研究を推進するために海外から研究者を招聘することを予定しており、そのための旅費も支出する予定である。現時点では、アメリカ合衆国からPriyanga Amarasekare博士(UCLA・准教授)の招聘を予定している。 さらに、シミュレーションを中心とする解析を円滑に進めるために高機能なパーソナルコンピュータを購入すること、および理論モデルの解析を進めるために大学院生をリサーチアシスタントとして雇用することも検討している。
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