研究課題
植物の花形質には地理的変異が見られることが多く、地理的隔離による異所的分化と、分化後の二次的な交雑といった視点からこれまで研究されてきた。しかし近年、共進化系の地理的モザイクという概念からのアプローチが注目されつつある。シソ科ヤマハッカ属(Isodon)のイヌヤマハッカとタカクマヒキオコシでは、筒状の花の長さに地理的な変異が見られる(4-12mm)。それぞれの種内で、花筒長は高度勾配上で側所的に分化している。これらの送粉者は主に2種のマルハナバチである。ミヤママルハナバチは口吻が短く(8-12mm)、山地性であるが(800-1500m)、トラマルハナバチは口吻が長く(10-17mm)、低地から低山地(100-1200m)に生息する。本研究では標高という環境要因が、マルハナバチの種組成の変化を通じて、植物の繁殖形質分化と遺伝分化をどのようにもたらすのか明らかにすることを目的とした。調査は兵庫県氷ノ山周辺の標高の異なる集団を対象とした。花筒長変異は標高が高くなるほど短くなった。ミヤママルハナバチは標高800m以上の7集団うち4集団のみで観察され、トラマルハナバチは全ての集団で観察された。花筒長への選択圧を評価するため、マルハナバチ一回訪花時の種子生産および自然状態の種子生産を測定したところ、マルハナバチ2種間で口吻長に対応した花筒長への選択圧は検出できなかった。また自然状態の種子生産からも、高標高集団でも長い花筒の種子生産が高く、花筒長と送粉者の口吻長の対応が必ずしも送粉効率を高めるとは限らず、集団毎の選択圧のかかり方は様々であった。マイクロサテライト7遺伝子座を用いてSTRUCTURE解析を行ったところ、遺伝的に異なる2集団が認められたことから、遺伝的に異なる集団が標高の違うところに生育し、二次的に接触していると考えられる。
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The American Naturalist
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